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【読書】山本晃市『極限力 ~Beyond Self~』
雑誌『RUNNING Style』(エイ出版社)の「極限の世界」というタイトルの連載記事を一冊にまとめたものです。トレイルランニングやスカイランニングで国内を代表する以下16人の選手を取り上げています。
山本健一
上田瑠偉
横山峰弘
松本大
大瀬和文
住吉友里
望月将悟
宮原徹
渡邊千春
小野雅弘
丹羽薫
井原友一
松永紘明
渡部春雅
奥宮俊祐
石川弘樹
(敬称略)
鏑木毅さんはTV番組などで今やおなじみですが、ほかの選手はあまりメディアに露出することがなく、こういった人たちの活動やこのスポーツの全体像についてもっと知りたいと思っていた自分には良い内容でした。
ぼくがこの本を知ったのは発売3日前の9月24日で、第5回上州武尊山スカイビュートレイル120(山田昇杯)を32時間以上かけてフィニッシュした直後でした。すぐに予約したのは実は帯に横山峰弘さんの名前を見つけたからです。
(この読書メモは、2018年10月に書いたものです)
横山さんは、スカイビュートレイルの総合プロデューサーとして、2000m級の山岳地帯で行われ、運営もコース保全も極めて困難であろうこの大会を支えています。また、レース当日には制限時間36時間の長丁場のなか、すべての完走者をゴールゲートで待ち受けています。
スタート前日のブリーフィングでは、穏やかな物腰で「本来なら運営側として『無理せず安全第一で』と言わなければならない。でも、もうダメだと思ってももうひと頑張りしてみてください。なんとかしてゴールに戻ってきてほしい」という趣旨のことをおっしゃっていました。熱い想いと優しさが伝わってくる激励でした。
本書『極限力』の横山さんのパートでは、2005年のハセツネで、横山さん、鏑木さん、奥宮さんが優勝を競って繰り広げた死闘について触れていて、短い文章ながら読んでいて緊迫感が伝わってきます。
ところが、奥宮俊祐さんのパートでは、同大会、夜間の霧で視界が悪かったときに横山さんがライトの使い方次第で視界が改善することを教えてくれたといいます。だから横山さんは奥宮さんの心の師匠なのだと。
ハセツネ優勝やUTMB6位入賞といった実績を持ち、この本の中でも「不屈の闘志を持つ炎のランナー」と表現される人が、実際にはこんなに優しいということに、不思議と違和感を感じません。
もしかすると横山さんは、誰かと争って勝とうとか思ってないんじゃないかな。不屈の闘志は、自分がやろうと思ったことを断固としてやり遂げるっていう方向に集中しているんじゃないかと思います。
このスポーツは「競走」ではあるけど、一方で「自己と自然への挑戦」という一面も持っていると思います。
自分はいい歳した一介の市民ランナーだしレベルも低いけど、このスポーツの愛好者として後者のテーマだけはしっかり追求していきたい。できれば横山さんのようなスタイルでそれができたらいいなと、そんな風に感じました。
(2018/10/21 記、2025/1/1 改稿)
山本晃市『極限力 ~Beyond Self~』エイ出版社(2018/9/27)
ISBN-10 4777952908
ISBN-13 978-4777952908