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【読書】羽根田治『人を襲うクマ 遭遇事例とその生態』
1970年の北海道日高(ヒグマ)や2016年の秋田県鹿角(ツキノワグマ)の事故を含む7件の事例を扱い、再発防止や危機に際しての対処法について考察します。ただし、出会ってしまった後の対処については「たぶん正解はない」……とのこと。まあ、そうでしょうね。
近年頻発しているツキノワグマによる事故例は、クマとの遭遇が必ずしも奥山に限らないことを示しています。人の集まる山頂付近や山腹の駐車場、身近な里山などでも事故は発生しており、被害のレベルも重症で済んだものから死亡、食害を受けた例まであります。
日高の事例に至っては、こんな状況下で被害者たちはいったいどうすれば助かったのだろうと絶望的な思いにすらなりました。この事案ではヒグマはまるでハンターで、逃げる登山者たちを数日にわたって追跡し、追い詰めて死に至らしめています。不謹慎な言い方かもしれないけど、今までに見聞きしたどんなホラーよりも怖かった。
最終章では熊の生態や近年の活動の変化、事故事例の傾向や発生原因の考察、控えめながら熊との共存への提言がなされます。
野生の熊はテレビや漫画で見るような可愛いものではありませんが、かと言って鬼や悪魔やヒト殺しのサイコパスというわけでもありません。単に戦闘力が高く言葉も理屈も道徳も通じない、生きるのに必死な野生動物ということで、きっとまずこれを肝に命じておく必要があるのだろうと思います。彼らが従っているのは"弱肉強食"というある意味当然かつ最も基本的なルールだけです。
自然を共有するものとして共存への努力はもちろん必要でしょう。でももし不幸にも対峙することになってしまったのなら、ただ喰われるのではなく、たとえ相討ちとなってでも一矢報いるくらいの気概がどうやら必要なのかもしれないと、事例を読んで感じています。
(2017/10/29 記、2024/12/20 改稿)
羽根田治『人を襲うクマ 遭遇事例とその生態 カムエク事故と最近の事例から』山と渓谷社(2017/9/22)
ISBN-10 4635230074
ISBN-13 978-4635230070