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【読書】石川憲二『海洋資源大国めざす日本プロジェクト! 海底油田探査とメタンハイドレートの実力』
昨今話題の海洋資源メタンハイドレート(※ この読書メモは、2014年に書きました)。資源貧国「日本」の起死回生の一手と過度の期待をよせ、本書にその開発技術や計画に関する内容を予想していた自分には、ややあてが外れた感じがしました。でも、別の……もしかするともっと大きな収穫があった気がします。
著者の石川憲二さんは、国内資源開発の話題性に飛びつくのではなく、日本のエネルギー戦略のあるべき姿を冷静に見すえています。
近頃はやりの自然エネルギー(風力や太陽光)への妄信を戒め、地球資源枯渇への危惧が以前よりもひっ迫していない事実を示し、選択肢の一つとして準国産資源(国外の自主開発資源)を含めたエネルギー自給率の向上という考え方や、そのために必要な「資源ナショナリズムを健全な方向に導く取り組み」についても説いています。
エネルギー戦略においては視野を狭く持つべきではない。手札を増やして、たとえ状況が悪くても大負けせずに逃げられるようにすべきだ──という提言に目を覚まさせられた思いがしました。
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P12
ドイツが日本より高いエネルギー自給率(約30パーセント)でいられるのは国内産の石炭を火力発電などの燃料としてかなり大量に使っているからで、風力や太陽光の普及による効果は微々たるものでしかない。このあたりを誤るとエネルギー問題全体がみえなくなってしまうので、まちがえないでほしい。
P33
「資源」や「白嶺」を保有しているのは経済産業省で、運用とデータ分析は資源開発の実働部隊である独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が担当する。したがってこの2隻の運用目的は海底資源ビジネスを成功に導くことだ。
一方「ちきゅう」は文部科学省所管の独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有し、その一部門である地球深部探査センター(CDEX)が建造・運用を担当している科学掘削船。「水深2500メートルの深海域で、さらにそこから海底面下7500メートルまで掘削できる」という世界最高レベルの深海掘削能力を誇っている。所属をみればわかるように、目的はあくまで科学振興のための調査・研究である。
P56
世界初の海洋からのメタンハイドレート採取の成功(2013年3月12日、愛知県沖の東部南海トラフ海域において世界で初めて海底からの天然ガス採取に成功(P36))という動きをうけて、政府の総合海洋政策本部は2013年4月1日、新たな海洋基本計画を発表した。
・平成30年度(2018年度)をめどに、商業化の実現に向けた技術の整備を行う。
・平成30年代後半に、民間企業が主導する商業化のためのプロジェクトが開始されるように、国際情勢をにらみつつ、技術開発を進める。
P65
人類が石炭を本格的に利用し始めたのは18世紀の産業革命以降だから、せいぜい250年程度の歴史しかない。石油は約100年、天然ガスに至ってはわずか60年程度だ。
P92
アンゴラは、現在、もっとも活発に油田開発が行われている国のひとつだ。2000年代になってから水深300~1500メートルの大水深フィールドで開発が本格化すると生産量は急増し、今では日産200万バレルに届こうとしているほどで、リビアなど北アフリカ諸国を加えてもアフリカ大陸では第2位の産油国になっている。
しかも、まだかなり伸びしろはあるようで、今後、水深1500メートル以深の超大深水エリアで開発が進めば資源国としての実力ではナイジェリアに並ぶのではないかといわれている。
(中略)アンゴラは大西洋を挟んでブラジルと向かいあっており、パンゲア大陸時代は地続きだった土地だ。
P97
東京の地下に大きな天然ガス田があり、現在でも採掘・利用されていることは、案外、知られていない。(中略)国内の水溶性天然ガス田の代表が南関東ガス田だ。千葉県を中心に茨城・埼玉・東京・神奈川県にまたがる広大なガス田なのだが、大量に採取すると地下の水位が下がって地盤沈下をまねきかねないため、ガスや有用成分だけを分離して残りの水は地中に還元するといった凝った方法で生産が行われている。
P101
非在来型化石燃料のなかで最初に大きな注目を集めたのがシェールガスだ。
この新しいタイプの天然ガスは2005年前後に急速に事業化が進み、それまで減少の一途にあったアメリカの天然ガス生産量をV字回復させた。そして、2013年5月、ついに日本への輸出が決まる。世界エネルギーの4分の1を消費する貪欲なアメリカが「自分たちでは使い切れないほどあるから」という理由で天然ガスを売りに出す日が来るとは、10年くらい前だったら誰にも予想できなかっただろう。
P103
アメリカとしては、原発停止で大量の天然ガスを必要とする日本が、最近になって新しい売り先を探しているロシアと急接近することを避けたかったという安全保障上の理由もあったと思う。
P104
シェールガスの生産は主に3つの新技術によって支えられている。それが水平抗井掘削、水圧破砕(フラクチャリング)、貯留層評価(マイクロサイミックス)だ。
シェールガスは文字通りシェール層にある天然ガスで、シェールは日本語で頁岩(けつがん)と呼ばれることからわかるように本のページのように薄く重なる層をもっている。ケーキのミルフィーユのような状態といえばわかりやすいだろうか。
(中略)
シェールガスの生産量は急激に伸び、ついにはアメリカを世界最大の天然ガス生産国に押し上げた。
P110
話題性ではシェールガスに一歩先を行かれたかたちだが、エネルギー資源市場への影響という点では、オイルサンドといった新資源が登場したときのほうがずっとインパクトは大きかった。なぜなら、原油埋蔵量のランキングでベネズエラを第一位に、カナダを第三位に躍進させた立役者だからだ。
P139
日本にはもうひとつ、有望な地下資源が眠っていることを付け加えておこう。それは地熱で、地理的にマグマの動きが活発な日本列島は世界でも第3位の資源量を誇る地熱大国だ。
P161
今後はエネルギー資源が供給過多になるとの予測がある。理由は簡単だ。まず欧米日の先進国グループは大きな成長が必要なくなっているのでエネルギー需要は横ばい、あるいはさまざまな省エネ政策によって逆に減少している。そんな状況でエネルギー資源供給地の拡大や資源の多様化がますます進めば、天然ガスも石油もダブついてくる可能性がある。
アメリカでシェールガスが大量に生産されたことにより、すでに天然ガスについてはそうした徴候が表れ始めている。きっかけは、本来、アメリカが買うはずだった中東産の天然ガスが宙に浮き、安くヨーロッパに売られていったことだ。ヨーロッパにはロシアからのパイプラインによって大量の天然ガスが供給される仕組みができあがっていたのだが、その影響を受けて価格低下や取引のキャンセルが続く。困ったロシアは慌てて日本への輸出を真剣に考え始めたという流れだ。
P177
たしかに日本は世界中からエネルギーを集めるために多大な出費をし、気遣いも欠かさなかった。二度と無謀な戦争をしないと決めた以上、この方針は絶対だ。
産油国に遠慮するあまり、中東で紛争が勃発するたびにどちらに肩入れしていいか判断がつかず、そんな優柔不断ぶりを批判されたこともあった。それでも全方位外交の基本を崩さなかったおかげで、海外における日本の評判はかなりいい。特に中東の国々は過去に負の歴史をもたない日本との関係を非常に大切にしている。もちろん彼らも商売人だから特別に安く石油や天然ガスを売ってくれるわけではないが、日本が必要とする量はちゃんと供給してくれた。これはやはり外交の勝利といっていいだろう。
結果として日本は軍事的な負担はできるだけ少なく大きな利益を得ているのだから、もしかするとこれほど戦略に長けた国はないのかもしれない。
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本ばっかり買っちゃだめって妻が言うから市立図書館で借りて、必死でメモしました。ホントは欲しいな。この本は買っても良い気ガスる。
(2014/3/8 記、2024/3/17 改稿)
石川憲二『海洋資源大国めざす日本プロジェクト! 海底油田探査とメタンハイドレートの実力』角川マガジンズ(2013/9/10)
ISBN-10 4047316156
ISBN-13 978-4047316157