【読書】W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』
── 時間というものは、とグリニッジ天文台の観測室でアウステルリッツは語った。われわれの発明品の中でも飛び抜けて人工的なものなのです。(P98)
建築史家アウステルリッツが、ヨーロッパ各地の建築と自身の半生に絡めて語る戦争と暴力の歴史。聞き手である「私」が綴ってゆきます。小説とも回想録ともつかない独特な作風です。
これといった大きな展開があるわけでもなくひたすら長く続く独白のような文章なのに、なんだか熱に浮かされたみたいに読み続けてしまいました。回想に回想が重ねられて、いったい自分がどの時制にいて誰の目線でものを見ているのかわからなくなってくる。かと思えば唐突に挿入される「……とアウステルリッツは語った」で、突然、元の場所に引き戻される。
周到に用意されたゼーバルトの迷宮。くせになりそうですが、優しく、息苦しい迷路から抜け出して社会復帰するのに、なんだかちょっと気力が要ります。
読まれる方はお気をつけください。
(2013/2/20 記、2024/1/20 改稿)
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W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』白水社 (2003/7/25)
ISBN-10 4560047677
ISBN-13 978-4560047675