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【読書】米原万里『ロシアは今日も荒れ模様』

ロシア語の同時通訳もされていた文筆家、米原万里さんのエッセイ集です。

外交の舞台で通訳として活躍されていたときの経験をもとに書かれていて、ソ連崩壊を間近で見た歴史的観察記録みたいにも読めます。知性と笑いが渾然一体となったこの感じ、好きかもしれない。

ロシア人は笑わないと勝手に思っていましたが(※)、この本にはロシア流のジョークや小咄がたくさん登場します。たとえば、こんなやつ。

「共産主義は科学だそうだが、少なくとも自然科学ではないね。自然科学なら、人間に試す前に動物実験をやるからね」

ロシアでは、「ダーチャ」と呼ばれる農園付き別荘(あるいは掘っ立て小屋)みたいなものを持つのが一般的らしく、余暇には貧富を問わず多くの人がここで農作業をして過ごすのだそうです。同国の人たちは、革命や独裁や連邦崩壊など、変化の激しい体制の歴史を生きてきているわけですが、米原万里さんは、このダーチャに関するくだりで、「国民総兼業農家だから多少国が荒れてもタフで無頓着に生きていける」といった考察をしていました。

「ロシア人は土をいじりながら自分を取り戻すのです」(第四章 連邦壊れてまだ日の浅ければ)

いつでも素朴な生き方に立ち返ることができるというのは、強みであり、心にも良いのかもしれません。

※ 高校生のときに観た「ロッキー4/炎の友情」の影響かも。ドルフ・ラングレン演じる相手ボクサー、イワン・ドラゴが大変、無愛想でした。

(2011/9/24 記、2023/12/23 改稿)


米原万里『ロシアは今日も荒れ模様』講談社(2001/2/15)
ISBN-10  4062730804
ISBN-13 978-4062730808

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