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【読書】米原万里『魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章』

豊富な海外経験と語学知識に基づく米原万里さんのエッセイ集。読むと自分まで海外を旅した気分になります......紀行文とはまた違った意味で。それに、くだけた文体で親しみやすい。

── 言葉と概念は、そう簡単に切り離せないぞ、という確信を裏付ける事例がゴマンとあるのだ。(P58)

── 「エビス」は、ロシア語ではfuckの命令形に相当する。
「カツオ」は男根を意味するイタリア語の響きに限りなく近い。
以上シツコク尾籠な話ばかり立て続けに紹介したが、こういう異言語間の駄洒落すなわち音韻上の偶然の一致は、なぜかシモネタに多いのである。(P90)

── 地球上には、実にいろいろな民族が棲息しているけれど、こんな時こんな状況下で、餃子のような手の込んだ料理をつくる民族が、中国人以外に考えられるだろうか。(P161)

── ちなみにユーリイ・ガガーリンも、ワレンチナ・テレシコワも、実は正副の副の方、メインではなくサブのほう、つまりバックアップ要員だったのをご存知だろうか。(P236)

── 本来人間は生命体固有の自己保存本能を持っており、その意味では極めて利己的かつ自己中心的な存在である。基本的には自己、自己の身内、自分の村、自分の民族というふうに自分に関わりが深い順に大切にする。だから、生まれ育った国を愛するというのは、極めて自然な感情なのだ。したがってそれをわざわざ大声で主張したり、煽ったりするのは、ちょうど性欲を煽るようにお手軽でいかさまな行為だという意味ではないだろうか。(P246)

── 仕事がら海外に行くことの多い人で、仮に須藤敏夫さんと名付けよう。この人は哲学徒にして神学徒で、しかも自称スパイであるからして、皮肉屋で偽悪的なところと、いやに説教くさく正義漢っぽいところとが奇妙なごった煮状態になっている。(P252)

とくに印象に残ったのは、餃子のくだり。これはNHKのドキュメンタリー番組「シルクロード」のワンシーンのことらしいのだけど、何週間もの砂漠の行軍で食料も乏しくなりつつあるシリアスな状況下、「野生の鹿を仕留めたぞ!みんなで餃子を作って食べよう!」という発想には、中国の方々のメンタルタフネスと食を追求する強い意思を感じます。笑える。

あとは「自称スパイ」の人なのだけど……。これ、佐藤優さんのことじゃないのかな……

(2014/1/9 記、2024/3/9 改稿)


米原万里『魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章』新潮文庫(1999/12/27)
ISBN-10  ‎4101465223
ISBN-13  978-4101465227

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