【読書】リチャード・ニクソン『指導者とは』
ウィンストン・チャーチル
シャルル・ド・ゴール
マッカーサーと吉田茂
周恩来 ……
前半には戦後世界をリードした先輩指導者たちの名前が並びます。キッシンジャー博士の『外交』を読むと頭に地図が浮かびましたが、この本は、古いアルバムのページをめくっているような気持ちにさせました。
二十世紀の傑物たちの人となりが温かい文章でつづられ、教科書でしか知らなかった歴史が生気を帯びてくるようです。ニクソン元大統領はリアリストであると同時に芯からヒューマニストだったのだと思います。
その人間観察力、歴史や国際情勢に対する慧眼は全編からにじみますが、特に発見が多かったのは後半の章「新しい世界」、中でも中東のリーダーたち(ナセル、サダト、パーレビ、ファイサル)に関するくだりでした。
ナセルが感情的指導者だったのに反し、サダトは頭脳的指導者だった。ナセルは国民の心を読むことができたが、サダトは彼らの頭越しに未来を見ることができた。
──P332「新しい世界 ナセルを継いだ男・サダト」
啓蒙君主というのは、非常に微妙な存在である。彼が変えようとする旧体制は、そっくりそのまま彼の権威の支持基盤でもある。成功するためには慎重に国民の脈を計りながら、着実に、改革が性急すぎないよう心がけねばならない。改革と近代化から失うこと最も多い連中が反抗すれば、直ちに王たる者の権限を行使する必要がある。
──P332「新しい世界 祖国イランのために・パーレビ」
前任者の汎アラブ主義から国益重視へとエジプトの外交を導いたサダト元大統領には、対中政策でそれまでの原則論から現実主義路線へ舵を切ったニクソン元大統領としては、一脈通ずるものを感じていたのではないでしょうか。
本書の中で、暗殺者の凶弾に倒れたサダト元大統領へ送られた言葉が印象的でした。
「指導者の真の功労は、しばしば死後にあらわれる。後継者が彼が置いた土台の上に築いて、はじめて、それとわかるのである」
(2012/2/29 記、2023/12/27 改稿)
リチャード・ニクソン『指導者とは』文藝春秋(1986/6/1)
ISBN-10 4163406301
ISBN-13 978-4163406305