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【読書】神奈川県立博物館『南の海からきた丹沢―プレートテクトニクスの不思議』

子どもの頃からいつも遠くにその稜線を眺め、そして今や最も気に入りのトレーニングコースになっている丹沢山塊の起源が、南の海にあったとは知りませんでした。

この本は、1987年度神奈川県民アカデミーで行われた「海の向こうからやってきた丹沢」というタイトルの講座をまとめたものだそうです。地球科学、地質、古生物、地震、海底探査などの8人の専門家がそれぞれの方法で丹沢山地の起源を探ります。

初版が91年の発行なので、内容はちょっと古いのかも知れません。ですが自分が走っている足元の地面がどこから来たかなんて考えたこともなかったので、驚きと発見のある楽しい読書体験になりました。

4つめの講義「貝化石からみた丹沢の歴史」では、東丹沢にある宮ヶ瀬の落合から出土する化石について触れています。講演は1987年なので、同地域が2000年に完成した宮ヶ瀬ダムの湖底に沈む13年前になります。

高校時代の友だちにロードバイク乗りがいて、水没前の同地域をよく自転車で訪れていました。とてもきれいなところだったそうです。残念ながら、今さらぼくがどれだけ望んでも、もはやそこを訪れることは叶いません。今なら体力的には走って行けるのに。

山を走り始めて、どれだけ大きく、そこにあるのが当然のように見えても、山や渓谷というのは決して永遠のものではないということに気づかされました。自然災害で、あるいは、開発目的で人為的に、思ったより簡単にそれは失われます。

ダムや道路の開発にやみくもに反対する意図はないのですが、この本で知ることのできる起源以降、数百万年の風化や浸食で形作られた丹沢の地形の奇跡を、以前よりも愛おしく、大切に感じています。

(2017/4/2 記、2024/11/2 改稿)


神奈川県立博物館『南の海からきた丹沢―プレートテクトニクスの不思議』有隣堂(1991/12/24)
ISBN-10 4896601009
ISBN-13 978-4896601008

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