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【読書】リチャード・ニクソン『ニクソン わが生涯の戦い』

政治家の方の著書はこれまでにもいくつか読んでいますが、業績自慢に見えて途中でうんざりすることしばしば。

しかし、この本は違いました。書くべき思想や信条と、それを文字にする才能を感じます。短く刺さる文章の数々は格言集のようにすら見え、今回はとにかくその一部を抜粋しようと思います。

危機的状況で最も簡単なのは戦闘そのものであり、対処が最も困難なのは戦闘の前の戦うか逃げるか決断していない時期だ。
──P246、第18章「緊張」

聖書は真実の泉だが、それには「女は弱き性である」というひとつの誤りが含まれている。
──P321、第25章「妻」

実際主義をともなわない理想主義は無力だが、理想主義をともなわない実際主義は意味がない。
──P399、第32章「実際主義」

われわれが忘れてはならないのは、富の再分配には、再分配される富の存在が必要だということである。
──P414、第34章「哲学」

ある国に対するわが国の政策は、何よりもその国の政府が国境の内部でやっていることではなく、国境の外部でやっていることに、その基本を置かなければならない。
──P449、第36章「地政」

反共の闘士でありながらイデオロギーいっぺんとうではなかったニクソン元大統領の真骨頂。当時の対中政策の理論的な後ろ盾と言えるでしょうか。一方で、いまの中国を見たらどのように思われたか、少し気になるところではあります。

最終章「薄明」からは粋な表現をいくつか。

引退にともなってしばしば生ずる精神力の減退は、その防止法がすでに知られている。医師は高齢者に、ビタミンをとって十分に体を動かせと告げる。その処方箋に、本を読み、地方紙に論説を書き、教育委員会に立候補せよとつけ加えたい。
──P490、第40章「薄明」

死が彼を招いてマルクスに会わせるまで
──P494、第40章「薄明」(毛沢東の晩年をさして)

ディーン・ラスクのいわゆる三つの年代、すなわち、青年と、中年と、「おや、元気そうですね」の年代
──P495、第40章「薄明」(なんだか分からないけど笑える)

結局のところ、大切なのはいつも思いきり人生を生きていくということだ。私は最も高い山の頂上と、最も深い谷底にいたが、平和と自由がともに栄える世界という目的地を見失ったことはなかった。私は、いくつかの大きな勝利を収め、いくつかの壊滅的な敗北を喫した。だが勝ち負けにかかわりなく、いま私はクエーカー教徒の祖母だったら、”心の平和”と呼んだであろう人生のひとつの境地を、ついに享受できる時期に達したことを幸福に感じている。
──P503、第40章「薄明」

最後の数ページは、ちょっと感動してしまいました。古書で探し出すことができて本当によかった。

(2012/3/24 記、2023/12/27 改稿)

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リチャード・ニクソン『ニクソン わが生涯の戦い』文藝春秋(1991/10/1)
ISBN-10 ‎4163455809
ISBN-13 ‎978-4163455808

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