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【読書】長沢正教『三増峠』

趣味の里山探検で三増峠というところまで行ってみました。丹沢山地の東のはずれにあり、県道のトンネルの真上を通る、人の往来の少ない登山道です。道に迷ったりして、ちょっと焦りました。

最近まで知らなかったのですが、地元近くのこの三増峠というところは、1569年に武田軍と北条軍が激突した合戦の地のようです。北条氏康は、武田信玄の小田原城攻め後の退路が三増峠であることを看破し、関東諸将に先回りさせて追討隊との間で挟撃を図ったとのこと。合戦の顛末が長沢正教さんの短編小説『三増峠』(郁朋社, 1999/2/1)に簡潔かつ生き生きと描かれています。

この本に掲載された布陣図によれば、この日ぼくが山中で道を見失って途方に暮れていた辺りは、武田側の大将内藤正豊が津久井城(城山)の北条勢に対する抑えとして布陣した場所のようでした。そう思うと、なんだか道に迷いながら450年を旅してきたような心持ちになります。

この本は、インターネットで里山の探検ルートを調べていてたまたま見つけたのですが、歴史上の出来事は意外と身近にも転がっているという、ちょっとした驚きをくれました。著者の長沢正教さんは、神奈川県のご出身で同県の県立高校に勤めておられたようです。きっと歴史の授業で合戦の様子について、生徒たちにお話しされたに違いないと、勝手に想像しています。その授業に出てみたかった。

このほか『かながわの伝説散歩』(萩坂昇, 暁印書館, 1998/10/1)には、この合戦で出た双方の落武者が、あちらこちらで自刃して果てていることが書かれています。

……そういえば夕刻、なんだか不穏な空気を感じた気がしなくもありません。道に迷っている間に日が暮れたりしなくて本当に良かった。

2冊はどちらも少し古い本で、いまは古書でしか手に入らないかもしれません。相模原市立図書館には蔵書があります。

(2015/1/25 記、2023/12/11 改稿)


長沢正教『三増峠』郁朋社(1999/2/1)
ISBN-10 ‎4873020115
ISBN-13 ‎978-4873020112

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