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【読書】深田久弥『わが愛する山々』
(この読書メモは、2020年5月に書いたものです)
1961年に刊行された深田久弥さんの山の紀行集(復刻版)です。
北は羅臼岳から南は九重山まで、1957年から62年にかけての23件の山行を題材としています。3つを除いていわゆる日本百名山ですが、かの名著『日本百名山』よりもひとつの山に割く紙数が多く、一山一山を落ち着いて楽しめる気がしました。
ピークに立ってその目に映る周囲の山々について語られると、なんだか登頂の感動と充実が伝わってきます。
早池峰山のエピソードでは、姫神山から見た八幡平、秋田駒ヶ岳、八甲田山や下北半島。
皇海山への途上、鋸山からは、岩菅山、苗場山、谷川連峰。
恵那山からは、南アルプス赤石岳、聖岳。さらに御嶽山や北アルプス乗鞍岳、穂高岳。
大台ヶ原山の日の出岳からは、西の大峰山脈と東の熊野灘。
深田さんはそのたびに「私の展望癖を読者の強いるのは、もうこれでおしまいにしよう」とか「私の独り喜びの山の詮索で、読者を退屈させてはなるまい」なんて書いたりしていますが、きっと読者のほとんどは同じ“癖”の持ち主だろうと思います。自分などは、立川郊外を走るバスの車中から丹沢の山々が見えただけで嬉しくなってつい、あれが蛭ヶ岳、こっちは大室山なんて確かめてしまう。
外出自粛のこのご時世。自分も長距離の山トレは控えたりしていますが、深田さんの紀行を読みながら地図でルートをなぞったりしていると、自分まで登ったような気になります。
……でも本当は、新緑の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、腹ペコになるまで思いっきりトレイルを走りたい。今年は目標にしていた大会も軒並み中止。早く気兼ねなく山に入れるようになるといいな。
(2020/5/23 記、2025/2/8 改稿)
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深田久弥『わが愛する山々』山と渓谷社(2011/5/23)
ISBN-10 463504730X
ISBN-13 978-4635047302