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【読書】ケン・フォレット『鷲の翼に乗って』

先週末を棒に振った風邪の再発で金曜の午後からまた熱を出し、結局この週末の本番(ウルトラマラソン100km)も棄権しました。初めて経験したDNS(Did Not Start)です。やれやれ。

(この読書メモは、2017年4月に書いたものです)

そんなわけで、この本はまたもや床にふせって読んだのですが、病床でも一気に読ませるだけの面白さがありました。

舞台は1979年、革命前後のイラン。当地に海外進出中の米国企業EDSが政情不安から社員の引き上げを決定した矢先、重役二名がイラン当局に拘束されます。法外な要求金額は保釈金というより身代金の色合いが濃い。明確な理由もないまま逮捕、投獄された社員を救うため、EDS社の会長ロス・ペローは法律面あるいは政治面から様々なアプローチを試みますが合法的手段は成果を見ず、ついに退役軍人ブル・サイモンズ大佐の協力を得て、ベトナム従軍経験者の社員からなる人質奪還部隊を組織します。

映画みたいですが、これは"実話"だそうです。

スリリングでスピーディーな展開が最高に面白いのですが、エンターテイメント的な魅力だけでなく、まさに進行中のイラン革命の瞬間を切り取ったドキュメンタリーとしても価値があるのではないでしょうか。現場の空気感が生き生きと伝わってきます。

1983年の発表当時はベストセラーになったそうです。また、86年にはバート・ランカスター主演でテレビ映画化もされています。それをなんで今になって読んでいるかというと、当時、父が読んで実家の本棚に残していたものを、先日見つけて拝借してきたから。アメリカ映画が好きで、ジェームズ・コバーンがお気に入りだった父のことだから、きっと楽しんだろうと思います。

ブル大佐とEDS社員の一行は結局西のトルコ国境から脱出を図り、これがまた難を極めるのですが、同地域を扱ったノンフィクションといえばほかにもちょっと印象に残っているものがあります。

小島剛一さんの『トルコのもう一つの顔』中央公論社(1991/2)と『漂流するトルコ』旅行人(2010/9)。

逃走経路となるイラン西部からトルコ東部はクルディスタンとも呼ばれるらしいのですが、同地域について小島さんは次のように書いています。

クルディスタンの住民がすべてクルド人というわけではない。トルコ人、アラブ人、ペルシャ人、アルメニア人、アッシリア人、グルジア人、チェルケズ人などが複雑に交じり合って住んでいる。(中略) トルコ、イラン、ソ連の三国にとっては、幾多の戦争や革命の歴史を経て「国民の血で贖った」貴重な領土の中に、シリアとイラクの場合は国際連盟委任統治領の国境をそのまま受け継いで独立建国したときの領土内に、たまたまクルド人がいるだけであり、当然のこととしてそれぞれの国家への、「祖国」への、忠誠をクルド人にも要求する。 (小島剛一『トルコのもう一つの顔』中央公論社(1991/2))

民族のモザイクと化し、地理的にも中央政府の統治が届きづらい。こうしたご当地事情が本書『鷲の翼に乗って』の佳境となるシーンにもしっかり反映されていて、不謹慎な表現ながら大変興味深かく読みました。

……けど、家族旅行で行きたいという気持ちには、とてもじゃないけどなりません。ひとり旅ならまあいいか?……いや、やっぱ怖いか (^^;;

(2017/4/25 記、2024/11/30 改稿)


ケン・フォレット『鷲の翼に乗って』集英社(1984/1/1)
ISBN-10 4087760618
ISBN-13 978-4087760613

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