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noranekopochi
【読書】野口武彦『「今昔物語」いまむかし』
書店で気まぐれに手にとった一冊です。いったい何に吸い寄せられたのだろう。ですが、題材となる「今昔物語」には、どうも時代由来というのか、独特の怖さがあるようで、この本は予想外のおもしろさでした。
最初の話、「羅生門の暗がり」では、まず主人公が羅生門に登る際の原話の表現「搔(かか)づリ登る」を、リライトに際して井上蟠龍(ばんりゅう)や芥川龍之介が単に「のぼる」としていることに着目します。
なぜこんな些細なことに拘泥するのかと首をかしげましたが、その後、著者は羅生門には楼上へ登る階段はなかったとする数々の根拠を挙げ、ここから「芥川流の」あるいは「現代の一般的な捉え方」と異なる原話解釈へと読者を導いていきます。
古典を読み解くとはこういうことかと感心しました。自分の前提知識が足りてないのがちょっと残念。まず登場人物の歴史的背景をよく知らないし、しばしば漢字(特に人名)の読み方もわかりません。できれば全部にふり仮名をふってほしい σ(^_^;)
著者の方は、読者に日本の古代史に対する基礎知識程度は要求しているのかもしれません。おかげで、ちょっと勉強してみようかなという気になりました。
少なくとも、これまでまったく興味のなかった領域にぼくの目をむけさせたという点で、古典「今昔物語」とこの本の吸引力は、現代の“ダイソン”をしのぐものがありそうです。
(2014/9/15 記、2024/10/5 改稿)
野口武彦『「今昔物語」いまむかし』文藝春秋(2014/2/25)
ISBN-10 4163900225
ISBN-13 978-4163900223