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【読書】松谷浩尚 『イスタンブールを愛した人々―エピソードで綴る激動のトルコ』
タイトルから想像したような情緒的な内容だけではなく、オスマン帝国末期から共和制初期にかけてのトルコを取り巻く世界情勢や外交政策にまで触れられていて、興味深く読みました。
先日読んだ梨木香歩さんの小説『村田エフェンディ滞土録』の歴史的背景が見えてきます。なるほど、「山田氏」は実在の人物をモデルにしていたのですね。
ほか、覚えておこうと思った情報をひとまず2箇所だけピックアップ。
── 共和制初期のトルコ外交は「内に平和、外に平和」という言葉で表現される。祖国解放戦争で独立を勝ち取ったが、二十世紀に入ってからはほとんど間断なく戦争が続いていたので、トルコの国民は疲労困憊の極に達していた。何よりも国民生活の安定とそのための平和が求められていた。(中略)紛争状態が依然として残るバルカンと中東の間にあって自国の安全保障の確保も重要な外交課題であった。(P182~)
── トルコは古くオスマン帝国の時代から伝統的に難民や亡命者などの政治的“弱者”に対して寛容であったのは特筆に値する。(P223~)
文明の十字路、世界史における要衝だけあって、安全保障もしばしば綱渡りなんでしょうな。また「帝国」という言葉からは、とかく圧政や弾圧をイメージしがちだけど、必ずしもすべてがそうではないらしい。
著者の松谷浩尚さんは、2008年までイスタンブール総領事を務められていた方とのこと。大変勉強になりました。
<参考文献で読んでみたくなったもの>
~第7章 芦田均~
芦田均『バルカン』岩波新書,1939年
宮野澄『最後のリベラリスト』文芸春秋,1987年
~近現代トルコを知るための参考文献~
W•S•チャーチル『第二次世界大戦』河出文庫,1984年
(2013/3/3 記、2024/1/20 改稿)
松谷浩尚 『イスタンブールを愛した人々―エピソードで綴る激動のトルコ』中央公論社(1998/3/1)
ISBN-10 4121014081
ISBN-13 978-4121014085