【読書】トマス・ハーディ『森に住む人たち』
「この叢書の中で、夫婦間の反目という問題に関連する其の他一、二の作品と同様、本書においても、夫婦生活の基盤をどう発見するかは ──男女に課せられた永遠の謎であるが── 依然として未解決である」と1895年の序文にあります。
百年以上経ってイギリスの離婚率が20%を超えた現代でも、やっぱり依然として未解決なのでしょう。
トマス・ハーディーの小説作品には運命論を想起させるものが多いそうです。この物語の中でも登場する男女が不運なめぐり合わせに翻弄されています。
今日は風邪のために一日中床に臥せって読んだのですが、故障から回復してようやく次のレースに向けたトレーニングができそうな矢先にこんな形で週末をつぶすなんて、自分のめぐり合わせだって彼らに負けないくらいろくでもないと、少々腐っています。
それでも自分には「体調が悪いくせに食欲だけ旺盛で、返って手間がかかる」──と悪態をついて笑わせてくれる妻がいるので、彼らよりもずっと幸せなのかもしれません。信頼できる伴侶をを得るというのは、努力だけでは到達できない人生の奇跡であるように思います。
ところで、序文でまったく触れてないにも関わらず、この作品の主題は"夫婦間の反目"というよりは、知的なものと粗野なもの、洗練されたものと素朴なものの対比であったと思います。そして物語の終局では後者の陣営に属する二人の登場人物が、このうんざりするような男女間の紆余曲折の物語にささやかな爽やかさを添えています。
その意味でこの作品のタイトルはまさに『森に住む人たち(The Woodlanders)』だったのだと、読み終えて納得しました。
(2017/4/15 記、2024/11/9 改稿)
トマス・ハーディ『森に住む人たち』千城(1981年)
ASIN B000J7V2FQ