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【読書】中村敏雄『オフサイドはなぜ反則か』

書店のすみっこ、詩歌・文学のコーナーに平積みになっているのを見て、なんとなく惹かれてしまいました。特にサッカー好きというわけでもないのですが。

新刊というわけではないので、ひょっとするとこれはブラジルで開催されるFIFAワールドカップの経済効果を狙った展示だったのでしょうか(※)。だとすると、店員さんの思惑にまんまと乗せられたのかも。まあいいや。面白かったから。

オフサイドをテーマに290ページ書くという心意気にまず恐れ入りました。webなどで調べると著者の中村先生は「スボーツ・ルールの社会学を語らせたらこの人の右に出る者はいない」という人のようです。文章は、一文、一文が長くて、ちょっと難しいかもしれません。反面、先生の学者肌というかマニアックさはとても伝わってきます。

オフサイド・ルールの起源を求めて、本書では発祥の地英国でのフットボールの成り立ちにまでさかのぼります。それはラグビーともサッカーともつかない、スポーツというより各地方独特の宗教行事のようなもので、なんとなく諏訪大社の御柱祭を連想させました。勇気と名誉を重んじる地元の神事において、ゴール前へ一気にボールを運ぶような「効率的な得点による勝利」はそもそも意味を持たなかったのでしょう。オフサイドを忌避する思想の起源は、どうもそのあたりにあるようです。

そもそも、勝敗を決することを第一義としたスポーツの概念自体が実はわりと新しいものなのかもしれません。世界中で統一ルールに基づく「同じ競技」が行われ、ランク付けと勝利至上が必然となった現代に、この本はちょっとした驚きを与えてくれます。

※ この読書メモは2014年に書きました。

(2014/7/22 記、2024/9/29 改稿)


中村敏雄『オフサイドはなぜ反則か』平凡社(2001/11/1)
ISBN-10 : 4582764150
ISBN-13 : 978-4582764154

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