10年ぶりくらいの読書感想文
昔からこの手の文章を書くのは好きだった。
高校生の頃、担任のN先生の方針で、
「学級日誌にその日の出来事書くの禁止」になった。
日直の周期が近付くと、必死に学級日誌のネタ探しをしていた。
普段より少しゆっくり通学路を歩いてみたり、
テレビ番組を注意深く観るようにしたり、
池袋駅前の交差点を眺めることができるマクドナルドの窓際の席で、人間観察をしたりしていた。
そんなある日、とある人物(以下W)に出会った。
Wは文京区本郷にある某大学の学生で、
T進ハイスクールN校の担任助手だった。
Wには、脇本を惹き付ける不思議な魅力があった。
中でも、彼の書く文章が特に好きだった。
何気ない「具体」の話をしているかと思えば、「抽象」の話に早変わりする。
伏線回収的な鮮やかさを感じる文章だ。
以下は、脇本が彼の文章を参考にして(パクって)大学生の時に書いたブログである。
載せるのも恥ずかしいくらい拙い文章だが、Wの手法のニュアンスが伝われば幸いだ。
http://sblog.tgu-snails.com/?eid=1289829#gsc.tab=0
脇本が愛する伊坂幸太郎もWのような手法を使う。
いや、Wが伊坂幸太郎のような手法を使っていたと言うべきか。
本作はその手法の魅力を惜しみなく出し切ったとも言える作品である。
主人公の岸は製薬会社に勤めており、身重な妻と二人暮らしをしている。
ある日会社から新商品のマシュマロ菓子に画鋲が混入していたというクレームへの対応を命じられ…という滑り出しは、いかにも「普通」のサラリーマン小説の趣だ。
4月から社会人になったこともあってか、思わず主人公を応援したくなるような気持ちになった。
第二章から物語は急速に動き出し、伊坂幸太郎ワールド全開になっていった。
あとがきに「『昼間は普通の会社員、夜になるとロールプレイングゲーム内の勇者となる』という設定から着想を得た」とある通り、
「夢の世界と現実世界とのリンク」というSF的かつ非現実的な設定が盛り込まれてくる。
主人公は、夢の世界でしばしばモンスターと戦っており、その勝敗に因って現実世界で良いことや悪いことが起こるというのだ。
伊坂幸太郎が「アクションシーンは、小説が苦手とするものの一つではないか」とあとがきに著した通り、戦いの場面を描くのであればマンガやアニメの方が優れているのは自明だ。
しかし、伊坂幸太郎の文章力と川口澄子の描いた挿絵によって、作中の登場人物達が極めて活き活きと動いているように感じた。
それだけでなく、マンガとも絵本とも違う、小説ならではの面白さがあった。ページをめくる手が止まらなかった。
最後に、大変興味深い事実を加筆して〆としたい。
この作品が世に出たのは2019年7月だが、
まるでその先の未来を予見するかのように「感染症の脅威」「感染症下の社会の様子」が著されているのだ。
やはり伊坂幸太郎は天才なのだろうか。
彼が凡人であるならば、『クジラアタマの王様』というタイトルの伏線を437ページ中428ページ目で回収するなどという芸当はできないだろうから、やっぱり彼は天才なんだと思う。
軽い気持ちで読み始めた小説が、目の前の課題に逃げずに立ち向かうことの大切さと、コロナ禍で生きる自らの姿を再考する契機となるとは思ってもいなかった。
これからもネタ探しでもしながら、
焦らずゆっくり生きていこう。
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