なつやすみの友

8月上旬、「“なつやすみの友”は届きましたか?」と上司からslackで連絡を受けた。
もちろん私の手元にはばっちり“なつやすみの友”が届いており、真新しいルーペと級数表があった。

現在の会社に入社して9か月、デザイナーとしてまだまだ未熟な私に、上司が購入してくれた2つの道具。使用用途があまり思いつかない人もいるかもしれないが、かなりデザインの勉強に重宝する。

ルーペは印刷物を拡大して見るために用いる。
印刷された小さな文字を拡大してみると、拡大前とは比べ物にならないくらい文字の「とめ」、「はね」、「はらい」など細かな部分がしっかり確認できる。普段気づかない文字の個性が見えるのだ。

特徴を確認することで、小さくても読みやすい文字とは、癖のないゴシックだけではないのだとわかる。自分の視覚を通すと知識ではなくしっかりとした体験として記憶に残り、文字組みの理解が上がったようで楽しい。

また肉眼だとグレーの印刷にしか見えない部分をルーペで覗くと、実はピンクと黄色と青の網点で印刷されており、どのような模様を描いているかまで、よく見える。しかしルーペを外して肉眼で見ると、グレーとしか認識できない。そこもまた、どうして見えないのか不思議で面白い。

そして全ての印刷物が網点で出来ておらず、拡大前の色と同じ色で隙間なくベタっと印刷してあるものとの違いを考えるのもなかなかよい。普段とは違った見方で頭を働かせて印刷物をじっと見る。

私個人としては、ルーペで印刷物を沢山観察したことはあまりなかったが、肉眼じゃ見えないものがはっきりと見えるのが新鮮だった。違う世界をそっと盗み見ているようでわくわくした。

私は拡大された小さな世界に夢中になり、ルーペにハマった。最初の数日は級数表には見向きもしなかった。
級数表は、透明な下敷きのようなもので、印刷物の上に置いて文字の大きさや文字間の空き具合を調べる。

ルーペは違う世界を見せてくれる魔法の拡大鏡だ。しかし、適当な位置に置いてすぐ観察できるルーペとは違い、地道に文字の大きさを確認することしか出来ないので、あまりわくわくしない、勉強感が強い印象だった。

しかし!

これが使ってみると意外と面白かった。

なにが楽しいかと言うと、級数表を使うと今まで印刷物見て感覚で捉えていた文字の大きさが、数字で表される。
本文と比べてこの見出しは3倍かな?2倍かな?これは2.5倍?
とぼやっと思いながら見ていた。しかしこれを使うとピタッと、この見出しと説明文の比率は2.666...倍!!!と計算で出せるのだ。

どのような倍率がどういった印象を受けるのか、なぜこの大きさにしたのか、などが正確な数字で自分の中に蓄積されていく。
目で見るだけの情報より解像度があがった知識が手に入る、級数表は魔法の透明下敷きだった。

こんな感じで時々文字を書き写しながら文字の大きさを見ていく。
ちなみに級数表の「級」は写真植字(略して写植と言われる)の時代に使われていた単位だ。DTPで使うpt(ポイント)とは大きさが違う。

級(Q)
写植システムの開発に伴い、設定された日本独自の単位で、日本語組版の文字サイズ単位で1級=0.25mm。
ポイント(point,pt)
欧米の活字サイズに基づく単位。約1/72インチが基準になり、文字の大きさに限らず、線の太さなどもポイントで指示されることは多い。
ちなみに1ポイントは約0.35mm。
(参照:http://www.sanposha.co.jp/blog/index.php?controller=post&action=view&id_post=22)


しかし今は文字の大きさに級数は使わないので、PC作業でよく使うpt(ポイント)という単位で文字の大きさを調べていく。

高級ブランドDiorのショッパーは文字が20pt
文字の大きさは35mm
文字の上下の余白は96mm。96を35で割ると2.66...なので約2.7倍。

kate spadeのショッパーを調べた時に「kate spade」の文字とそのすぐ下にある「NEW YORK」の文字の比率が2.692...で約2.7倍。

もしや高級ブランドは2.7倍がお好き?と、「ワーオ」なんて頭の中でモンローが囁く。

しかしデパコス(デパートで売られてる系コスメ)のGUERLAIN(ゲラン)のショッパーの文字とロゴは、ほぼ整数比だった。やはり情報量で文字の大きさの比率は変わるんだなぁと、稚拙な仮説はあっさり打ち破られた……。


1人でキャッキャしながら、今年の夏はルーペと写植割付表という頼もしい友を味方に付け、なかなか楽しいなつやすみを送った。
なつやすみは明けたが、他にもいろいろ観察したい。

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