瞳が告げること
ドラマを観ていた。
主人公の女性が、好きな人のために、
「今は自分のことだけ考えて。
私は大丈夫だから。」
と、告げていた。
あの目。あの瞳。
私はその女性に、かつての彼女を思い出し、気がついたら、作業の手を止めていた。
瞳が揺れる。潤んで、だだその奥にしっかりと、意志を持つそんな目。彼女は同じ目をしていた。
諦めや、悲しみや、苦しみ、そして、そうするべきで、そうしたいのだし、もう決めたの。
そういう目。
本当に?
チラリと揺れるその瞳に、問いただしたくなる。
本当はどうしたい?
強がっていない?
覗き込む私を、彼女の目は、少し悲しげに、そして、一層の意思をこめて、見つめ返す。
「好きだけじゃ、ダメでしょう?」
ポトリ
揺れる瞳から、まん丸な雫が落ちて、それは今まで見たどんな涙よりも澄んで、そのままガラス玉にでもなるくらい綺麗な結晶だった。
そうだった。
あの瞳が、すべてを告げていた。
彼女の想いも、悲しみも、苦しみも、諦めも、そして、強い意志も。
私が好きだったのは、そんな彼女の、深く澄んで素直すぎる瞳だったのかもしれない。
まっすぐに見つめ返す目。
私はもう、問いただすことはしない。
あのころ見えていなかったのは、私が見たくなかっただけだったのだ。
ドラマの女性の瞳を見て、わかる。
彼女がちゃんと、私を想ってくれていたこと。
まっすぐに。
「仕事、おわったの?」
と、声をかけられて、止まっていた手を慌てて動かす。
「あぁ…まだ。ドラマ見入っちゃってたわ」
あの瞳が告げたこと。
それだけ分かっていれば、私は大丈夫だ。