大変な世の中に。
私と母は、工房で二人、日がな一日中手作業の仕事をしている。座って、時おり話して、ラジオを聴きながら。
両親の地元で、昔からの同級生や、馴染みの人や、近所の人がふらっと立ち寄ることもよくある。
「おーい」
とひょっこり。
趣味で絵を描く人が、描いたものを見せにきたり。96歳の「おかあ」が作った千代紙のマッチ箱を配ってくれたり。たまには人と喋らないと呆けちまうと腰の曲がった近所の一人暮らしのお婆さんも。
ひょっこり立ち寄るお客さんに、母はコーヒーやお茶をお出したあと、私たちは手を動かしながら、しばらく話すのだ。
こういうとき、田舎は長閑だな、と思う。
「みなさんお変わりないの?」
と聞かれると、嬉しそうに話が始まる。
96歳の「おかあ」の話を、「まいる」けれど嬉しそうに話すおじさん。
腰の曲がったお婆さんは、お茶をすすりながら、ニコニコと温まって帰っていかれる。
地場産業の衰退を嘆き、寂しそうに、昔話がはじまることもある。かつて、現役時代に闊達と働いていたころ、町も産業が盛り上がって賑わっていたと聞く。昭和の、「若い力」に町が湧いていた光景。
田舎は長閑で、そして、少し寂しい。
けれども、変わらずに細々と、昔ながらの手作業をしている私たちを見て、心なしか元気になって、
「また来るで」
と笑顔で帰っていく。
大変な世の中に。