だから僕は花を贈る
至極透明な涙をためて
唇をぐっと噛んで
「全部
全部
嘘だったのね」
哀しみや苦しみや諦めや 寂しく冷たく言い放つ
そんな訳ない
僕は君がとても好きだ
それは今もちっとも変わらない
その証拠に
僕は君がいれば
モノクロな世の中に色彩が溢れ
心躍るメロディーが流れ出す
見せたい景色にシャッターをきり
食べさせたいメニューのお店はメモをして
指先で送る言葉たちは
僕のこの指紋でもって
あらんかぎり語彙を用いもなお
足らない
けれども君は俯いて
そのせいでポタリ
雫は落ちて
「あなたは小説家なのよ」 と
おでことおでこをくっつけて言うんだ
「こうしたら
あなたの頭の中を覗けたらいいのに…」
言葉を集め、選び、重ね、綴り
僕は 時には嘘をも編みこみ
物語を紡いで
それでも現実を生きている
君に伝えた
たった一つの思いを
君は訝る
私を物語にしないでと
嘘と綯交ぜにしないでと
だから僕は花を贈る
白く可憐な甘い香りの
ころころとよく笑う
君によく似た鈴蘭の花を
僕が小説家であるがために