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あこがれ。

日の暮れかけた駅は、いつもの制服姿やスーツの人々よりも、お出かけ仕様の若者たちが目立つ。駅前の小さなクレープ屋さんには列ができ、飲み屋の前では早め集合のお兄さんたちがタバコを吸っている。

春の気配。

日は長くなって、空は淡くグラデーションに暮れていく。小さな飛行機雲が消えかけのオレンジを引いて。大人っぽい木々のシルエットが宵を誘いはじめる。

東の空ではそろそろ月が昇る準備をしている。

泣き腫らした目をした次女を助手席にのせて、シティポップを竹内アンナが甘くうたう車を走らせる。

異動になった先生との、最後の部活だった。

初心者で入部したバレー部は、背の低い次女に出番はあるのかと心配したけれど、中学のソフト部で鍛えた下半身が、彼女をリベロへと導いた。

顧問の先生のナチ先生の下、小さくても動けるレシーバーとして育てていただいた。

彼女が、大変な学習量でもへこたれず部活へ行っていたのは、ナチ先生への憧れがあったからだ。生徒の中に入り、自らプレイをして教え、たくさん褒めてくださった。

「ナチ先生がね」と帰ってくるなりその日の会話ごと話す次女の様子を見れば瞭然だ。

そのナチ先生との別れの日、だったから。

信号待ちで
「いっぱい泣いた?」

「うん、泣いた、もうヤバかった」

「また会えるよ、きっと」

「うん、新しい住所聞いた。『忘れ物あったら届けに行きます』って言った」

「忘れ物、あるといいね」

道を、白と茶色のブチの猫が横切って、脇のしだれ桜が咲き始めて。

窓の外をぼーっと見る次女は、何を思うんだろう。

春の気配。

生暖かくさざめく。

彼女の足首には、
黄色と青の矢柄編みのミサンガ。
昨日彼女が編んでいた、   
ナチ先生とおそろいのもの。

憧れの春。

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