【読書感想文】晴れ、時々くらげを呼ぶ
鯨井あめさんのデビュー作です。
装丁の綺麗な写真と「くらげ」、がとても気になって手に取った一冊。
図書委員の彼らの集まる場所は図書司書室で、“読書週間”に向けておすすめ本のPOPを書いたりしている。
読んでいると、他にもたくさんの本の名前や、作家の名前が出てくる。本の好きな人ならきっと嬉しくなってしまう。
司書室に集まる気の合うメンバーが、少しずつ増え、『くらげ乞い』のメンバーにも加わっていく。彼らの抱える胸の内は、高校生らしい危うい不安定さに揺れているけれど、集まると、不思議な優しい空気感がある。
世界にくらげを降らせる、という無謀とも言える夢を、彼らは真面目に叶えようとする。
どうしてくらげ?
どうして降らせるの?
くらげって降るの?
ずっとそう思いながら読んでいたけれど、一度降ったのだ。小崎が泣いていた翌日に。
司書室に集まるメンバーの一人一人、今いるところでもがいたり、足掻いたり、理不尽に苛立ち、傷つき、耐えたりしていた。
自分たちの力では、どうしようもない理不尽に、一つできることが、「くらげ乞い」なのだ。夢であり、挑戦であり、抵抗だ。
くらげを降らせるために、様々な手を尽す。
亨の父は、売れない作家だった。
父が病死してしまってから、亨は父の作品を一度も読んではいない。棚に鍵をかけて。父の遺したある言葉にずっと苦しめられていたからだった。
けれど、その作家の遺した本のファンがいた。その本の言葉に救われていた人がいた。
くらげはもう一度、降る。
亨と父の、優しくて大切な時間も蘇る。
亨へと遺された『未完成本』に書かれた言葉がとてもよかった。
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私は、水族館で好きな水槽の中に、くらげの水槽がある。綺麗にライティングされて、ふわふわと水に漂うくらげを、ぼーっと見ているのが好きだ。たいていは子どもに引っ張られて、満足いくほどゆっくり見ていられないけれど、許されるならずっとぼーっと見ていたい。
そんなくらげが降ったら。
何だかほんわり、何もかも「まぁいっか」なんて思ってしまいそう。
急かされることも、諍うことも、尖ることもやめて、窓から降るくらげをぼーっと見ていたい。