カムフラージュ。
気まぐれにきたメッセージは、
ちょうどまあるいオレンジの夕陽が
家々の窓に丸ごと映っているのを、
運転しながら見かけた帰り道だった。
良妻賢母な彼女らしいメッセージに、家族のために夕飯の下ごしらえをするキッチンでの姿を思い出す。ソファーに座って編んでいたのは子どもの習い事用のカバーで、自分用の物すら編まなかった。
車を停めて、霞む空にぼんやりと沈んでいくオレンジを見届けながら、そう返す。
彼女を待ちながらよく本を読んでいた。二つの月のある世界*へ逃げ込んでは、根気よく彼女を待っていた。「待っている」ことを、私はいつも「本読んでる」と言った。
絵も本も陶芸も、「好きだった」んじゃない。
あの頃から、私は、何か変わったろうか。
今も変わらずに「好き」なのだ。
絵を描きながら、
本を読みながら、
土を捏ねながら、
「待っている」ことを隠して生きて。
個展を開いたら、
彼女は見に来てくれるだろうか。
私は、
「見に来てほしい」と
言うだろうか。
いつか。
二つの月のある世界*
村上春樹による長編小説「1Q84」の中で、主人公 天吾と青豆は二つの月が浮かぶ世界へ紛れ込む。