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新緑を食む。
いつもの通勤道が、黄緑に染まる。
ビリジアンに、ホワイトを混ぜる分量をさまざまに。ほのかにレモンイエローも。
ついこの間まで、隙間ばかりでカサカサの、バーントブラウンの裸木の森だったはずが、いつの間にかモリモリと若葉が茂っている。
工房への道は、丘を下ったあと、また緩やかにくねくねと山沿いを登っていく。七つのカーブからなる「ななまがり」を登っていく間、森の様子が季節ごとに色彩を変える。
ピカピカの新品な若葉は、朝陽に光る。
春の風が、子どもをあやすように、その黄緑の枝木をユサユサと、サワサワと揺さぶる。
ゆっくりとハンドルを握りながら、今朝は、その木々の間に垂れ下がり、ユランユランと揺れる「藤の花」に気付く。
もう、そんな季節だ。
ピカピカの新緑は、やわらかく、香り立ち、美味しそうで、私がもしもキリンやシマウマだとかなら、それはそれはモシャモシャと食むだろう。新鮮で柔らかなベビーリーフのように、天然のサラダバー。
アハ体験かと思うほど、いつの間にか、森の黄緑が増えているのに気付くのだ。
「だるまさんがころんだ」と目を伏せている間にも、静かに、着々と黄緑は増えていて。見張っているうちは、動いていないようだけれど。
そうやって、日ごと春が濃くなり、初夏へむかおうとしている。
ピンポーン
近所のおじさんが届けてくれたのは、山の幸だった。
![](https://assets.st-note.com/img/1681719367872-z0sZKqvrCA.jpg?width=1200)
「こしあぶら」。毎年この季節になると、おじさんはハイキングのような狩りをしてくるのだ。春の山菜狩り。
今夜は天ぷらにしよう。
夫に「ほら、いただいたよ」と見せると
「おお、えっと、それ、なんやったっけ?」
「こしあぶら。」
「おぉ、こしあぶら!」
新鮮な山の幸をサクッと天ぷらに。
食卓に並ぶ黄緑。
こしあぶらは、苦味も少なくなく(子どもはフーンと鼻に抜ける香りを嫌がる)、豆のようなコーンのような香ばしさで、私も夫も大好きな山菜だ。
「うん!うまい!なんやったっけ?これ…」
どうしても名前を覚えられない夫。こんなに美味しいのに、「うまい!」って言うのに。
さっき「おぉ、こしあぶら!」と教えたばかりなのに。天ぷらを揚げている間に忘れてしまう。
「なんやったっけ?」
「そう!これは『ナンヤッタッケ』です。
『ナンヤッタッケ』の天ぷらです。」
…もう、イッパイアッテナ方式でいこうと思う。
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※藤本家におけるイッパイアッテナ方式
『ルドルフとイッパイアッテナ』は、斉藤洋の児童文学作品。
【あらすじより抜粋】
ルドルフが親分に名前を訊ねると、「おれの名前はいっぱいあってな……。」との答えが返ってきた。しかしルドルフは親分の名前が「イッパイアッテナ」であると勘違いしてしまう。