
視覚思考者の味方でありたい|私が図解ツールを作り始めた理由
序章:図解ツールとは?
私は2024年10月から現在にかけて、知識を視覚化する「図解ツール」を作っています。図解ツールとは、本の知識や社会の関係性を構造化し、その本質=「骨組み」を明らかにするものです。個々の要素の関係性や全体の流れを可視化したものです。

図解ツールに期待することは、主に2つあります。
見る人の理解を深める助けとなること。
人と人とが議論する際、ただの空中戦にならないようにすること。口のうまい人が議論を主導してしまうのではなく、「論点の地図」として活用し、世の中で冷静に堅実に議論を進められるようにすること。
図解ツールを作り続けているのは、単に私が好きだからという理由もありますが、それ以上に深い理由があります。それは、私自身が視覚思考者(ビジュアルシンカー)として生きづらさを感じた経験と、そこから得た気づきがあるからです。
この記事では、私が図解を始めたきっかけや目的を知ってもらうことで、図解ツールへの興味を深めてもらえたらと思い、作成しました。
長文になりますが、ぜひ読んでいただけると幸いです。
視覚思考と言語思考
みなさんは 視覚思考者(ビジュアルシンカー) と 言語思考者(バーバルシンカー) という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
私がこの概念を知ったのは、2024年9月に テンプル・グランディン著『ビジュアル・シンカーの脳:「絵」で考える人々の世界』 に出会ったことがきっかけでした。この本では、物事を考える際の 頭の中での情報処理の仕方の違い について説明されています。ざっくり言うと、次のような分類になります。
◆ 視覚思考
脳が視覚の回路を使って情報を処理する、いわゆる「右脳的な」思考、視覚思考には、大きく分けて2種類あります。
空間視覚思考:パターンや数学的な構造をもとに考える。
例) 音楽家、数学者、統計学者、科学者、物理学者、プログラマー物体視覚思考:絵や具体的なイメージで考える。
例) デザイナー、画家、建築家、発明家、機械工学士
◆ 言語思考
脳が言語の回路を使って情報を処理する、いわゆる「左脳的な」思考
言語思考:言葉を使い、物事を順序立てて体系的・論理的に理解する。概念の把握や文章表現が得意で、口も達者。
例) 企業の管理職、政治家、弁護士、教師、著述家
昔から「右脳派・左脳派」や「理系・文系」といった分類が語られてきましたが、私にとって 「視覚思考・言語思考」 というフレームが最もしっくりきました。これによって、自分自身をより深く理解することができたのです。
知らない街での道順を覚えるときの違いを例にするとわかりやすいかもしれません。
視覚的に処理する人:まるで空から地図を見ているように、街全体の空間を頭の中に描き、自分がその中のどこにいるかを常に俯瞰しながら考える。
言語的に処理する人:「最初は右に曲がって、そのあとまっすぐ行って…」と、言葉で順序立てて道を覚える。
ただし、人はどちらか一方に完全に分類されるわけではありません。それぞれの能力の絶対的な高さと、3つの能力の相対的なバランス が、他人から見たときの「認知の特徴」として現れるのです。
そして、この違いは単に道を覚えるときだけでなく、 仕事での問題の捉え方や課題分解の仕方、人との対話での認知のズレ など、あらゆる場面に影響を与えているのでしょう。
自分の空間視覚思考と人生での壁
振り返ると、幼少期からずっと視覚思考的、特に次第に空間視覚思考的に物事を考えることが好きでした。数学や物理が得意だったのも、その影響があったのかもしれません。
幼少期に夢中になっていたブロック遊び
小学生の頃、たくさん作って改造したガンプラ
幼少期から変わらない整理整頓好き
中学時代からの趣味である音楽(ロック、ギター、作曲、DTM)
バイクや車のカスタム
Tシャツや革ジャンのカスタム
大学時代、3D CADを使って実験設備をイメージ化
写真を切り張り、コメントを記載して整理し作り続けている家族アルバム(妻と付き合っている時代から数えて今では計24冊)
娘のために作った、段ボールや木材を使った数々の手作りおもちゃ
仕事では、常に課題をツリー構造や因果関係図で整理し、課題分解しながら業務を推進する癖が強い
大学時代の研究室や職場での情報管理においても、誰に言われるでもなく共有サーバーやSharePointのフォルダ階層を常に意識し整理することが習慣づいている
などなど。
このように、常に視覚的に物事を捉え、構造化することが自然な思考のスタイルでした。

しかし、その一方で、言語表現や読解には苦労してきました。
学生時代は国語の読解問題や、社会科の暗記中心の科目が苦手で、どうしても好きになれませんでした。
あまり興味を持てなかった読書
新人のころは会議で報告しても、うまく伝わらないもどかしさ
上司に立場を利用され、ただ言葉で言いくるめられる苛立ち
視覚的に考えることが得意である一方、言語による伝達や論理展開の難しさを痛感してきたのです。
順調な人生と自尊心の増大
私は、田舎で生まれ育ち、学歴主義の社会の中で、時に失敗しながらも順調に進んできました。(図解「貧困の連鎖構造(教育編)」で学歴主義への批判をしたにもかかわらず、という点が少し皮肉に感じられます)
中学校までは当然地元の公立学校。その後、高校は県内トップの進学校(公立)に進学し、大学も一浪を経て、なんとか東京大学に合格。そのまま大学院へ進み、大手企業に就職しました。転職先も大手企業です。仕事も割と生産性高く、周囲から期待される立場になりました。
前の会社での係長職への昇格も、同期の中では最も早い時期で、同じ職場の1つ上の先輩たちよりも早かったことは、今振り返ると特に自信を深める要素となっていました。また、社内の選抜研修にも選ばれたり、評価されたりすることが増えていきました。
転職した後も、上司からは「期待している」「マネジメントに早めに上げる」といった言葉をもらい、同僚からも早くマネジメントに上がってほしいという声をかけられました。
その結果、どうなるでしょう?
アホみたいに自尊心だけが増大していったのです。
振り返ると愚かだったのは、次第に友達や仲の良い同期、同僚と比較し始め、いつの間にか「自分はあいつよりも勝っている」「今のところ順調だ」という意識にとらわれるようになっていたことです。
世界に目を向ければ、社会課題を解決するためにスタートアップを立ち上げるなど、より広い視野で挑戦している人が活躍しています。しかし、自分は狭い世界に閉じこもり、井の中の蛙になっていました。
そうして次第に、自分が本当に成し遂げたいことが薄れ、出世競争に意識の半分が向くようになっていました。
人生における2つの失敗
振り返ると、自分の人生は常に以下の3つの弱さと向き合わなければならないものでした。
• 人一倍のあがり症、極度に緊張しやすい性格
• 慢心しやすい性格
• 言語思考が苦手
そして、これらに負けたとき、自分は大きな失敗をしていたのだと、今では思います。
その1つ目が、前述した大学受験の失敗でした。
受験本番が近づいた模試では、なんとか合格できるかもしれないギリギリのラインを取っていました。しかし受験本番、田舎に住んでいたため、当然受験は高校の友達たちと都内のホテルに泊まり、会場に向かうことになりました。
するとどうでしょう。住み慣れた実家から向かうのとは違い、極度に非日常的な状況を実感し、緊張はMAXに。そして本番。なんとか問題を解き進めましたが、手ごたえはいまいちで、結局現役受験は落ちてしまいました。
その後、親に東京の塾と寮生活を勧められ、再度受験に臨みました。本番では慣れた寮から試験会場に向かい、落ち着いて試験を受けることができ、無事に合格しました。(親には本当に感謝しています)
2つ目の失敗は、転職した現在の会社でのマネジメント昇格試験における失敗です。前述したように、上司からは期待され、マネジメント昇格試験を受ける機会を得ることができました。
試験は次の3段階でふるいにかけられます。
GMAPによるビジネスフレームワーク、クリティカルシンキング試験
部門内発表
外部によるアセスメント試験
特にGMAPのビジネスフレームワークは高得点だったものの、クリティカルシンキング試験では、前述した通り読解問題が悪く、その特徴が如実に現れました。

それでも何とか3次試験に進み、最終試験(アセスメント試験)を迎えました。試験は前日からホテルに泊まり、2日間かけて試験会場に向かうというものでした。(既視感です。)
当日、気づいたらあまりの緊張と気負いにより、「自分が出世したい」という気持ちよりも、「周囲の期待に応えて出世しなければならない」というわけのわからない気持ちで心がぐちゃぐちゃになっていました。試験内容は模擬面談(問題を抱えた部下)、グループ討議など、まさに自分が不得意な言語思考寄りのものでした。
最終試験での手ごたえは最悪で、予想通り試験に落ちてしまいました。
めちゃくちゃ落ち込んだ自分は、2日間布団にこもり、妻から「いつまでくよくよしているの? しょうがないじゃない、次もまたあるよ。」とたしなめられました。
2つの本との出会いと気づき
そんなに落ち込んでいたとき、絶妙なタイミングで2つの本と出会いました。
1つ目はアドラー心理学を解説した『嫌われる勇気』です。この本はとても有名なので、ご存じの方も多いと思います。私もタイトルだけは知っていました。
落ち込んでいたからこそ、書店で見かけたとき、ふと手に取ってみたのです。おそらく、出会うタイミングが早ければ、ただ「ふーん」で終わっていたかもしれません。しかし、このキャリアで失敗したタイミングで出会ったからこそ、その言葉がものすごく身に染みました。
自分の図解「アドラー心理学」でも表現しましたが、まさに自分が原因論者であり続けていたことに気づくことができたのです。そして前章でお伝えした失敗も、今の自分の糧になっている「意味がある経験だった」と思え始めました。
そして、若い頃はあまり本を読まなかった私ですが、社会人になってから読むようになり、その都度、普段Powerpointでノートを整理するようにまとめていたので、この本もまとめました。それが以下のような形です。

次に最高の出会いがあったのは、最初に紹介した『ビジュアルシンカーの脳』です。
ずっとPodcastで「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」を聞いていたからでしょうか。おすすめにたまたま出てきた「ゆる言語学ラジオ」を試しに聞いてみたところ、その中の「絵で物事を考える『視覚思考者』にはどんな世界が見えるのか?【ビジュアルシンカー1】」という回に大変興味を持ち、速攻で本を購入しました。それが、この本との出会いのきっかけです。
この本に出会い、私は自分が視覚思考を強く使うタイプであることを再認識しました。また、言語思考能力もこれまでの仕事を通じて周囲と対話する中で決して低くはないと感じているものの、私の思考のバランスはかなり視覚思考寄りだということを痛感しました。
その中で、自分が空間視覚思考に強いのではないかと思うようになり、「アドラー心理学」を一度まとめた上記の整理ものを、さらに自分が好きなシステム図(概念関係図のようなもの)に整理できるのではないかと思い立ったのです。
それからは雷に打たれたかのように、アドラー心理学をシステム図的にまとめ直し、デザインもせっかくならオリジナリティが出るようにしようと、購入したデザイン本を参考にしながら自分なりの表現手法を作り上げていきました。そして最終的にできあがったのが、noteで公開したこれです。

私の脳内では、「嫌われる勇気」書籍全体、初期に整理した2枚のPowerPoint、そしてこの図解が、すべて同じものを表現しているように感じるようになりました。
燃え上がってきた思い
そして、常に心に残っている『ビジュアルシンカーの脳』に書かれていたことの一つは、この世界が言語思考者によってかなりコントロールされているのではないか、という著者の視点です。
企業の管理職、政治家、弁護士などは、概念を理解することや文章表現が得意であり、何より口が達者です。
人間社会はコミュニケーションによって成り立っているため、口が達者な人がどうしても有利になりやすいことを、皆さんも実感しているのではないでしょうか。
組織の上司を思い出すと、抽象的で中身が空虚なことを、その立場を利用して上から目線でごまかし、会話を自分が有利になるように運んでいることがあります。
社会を見渡すと、政治家は選挙の際だけ空虚な言葉を並べ、まるで良いことをしているかのように世間にアピールします。そして当選後、問題が発生しても、雲をつかむような言葉を並べてその場をしのいでいるのをみなさんも目にしているでしょう。
また、メディアやSNSで飛び交う言葉が人々のマインドを操作し、最終的には戦争を引き起こすことさえあるのです。
一方で、この世の中を豊かにしている多くのもの、例えば科学技術や芸術の発展は、視覚思考者が多く貢献しているのではないでしょうか。もちろん、文学的な豊かさなど、すべてがどちらか一方に偏るべきではないと思いますが…。
最も心に響いたのは、「世の中を動かす多くのシーンで、言語思考者が優位に立っている」ということでした。学校の教育でも、人の能力を測る世の中のあらゆる試験でも、例えば教科書や問題文を読み解く力によって、スタート時点で優劣がつけられてしまうのです。
そんなことを知ったとき、自分がかなり視覚思考でありつつ、最近は本をすごく読んで理解できていると実感しました。そして、そういった人類みんなが根源的に知っておくべきことを、もっと言語だけでなく、視覚的にもしっかり理解できることが、世の中の視覚思考者の助けになり、世の中をよりよくしていけるのではないかと思ったのです。
それからは止まることなく、仕事や家族サービス、子育て、家事以外の時間をすべて使って、ほぼ1図解ツール/1週間ペースで作成し続けてきました。

私が今やりたいこと
これまで紹介した私の人生の流れを経て、今、以下のことを心に抱き、『図解ツール』を作り続けています。
視覚思考者の理解を深める助けをしたい。
人と人とが議論する際、ただの空中戦にならないようにすること。口のうまい人が議論を主導してしまうのではなく、「論点の地図」として活用し、世の中で冷静に堅実に議論を進められるようにしたい
このツールが本当に有用かどうかは、当然まだわかりません。
ただ少なくとも、今は自分の日々の心の支えになっています。仕事でも周りと議論する際に使い始めており、徐々に自分の武器になりつつあります。
そして今では、これをみなさんに共有することで、視覚思考者が社会で埋もれることがないように、また言語思考者と対話する際にも、すぐに目の前に取り出し、その図解ツールをもとに対話を重ねることが、新しい社会コミュニケーションになるかもしれません。
これは私のエゴであり、ただの勝手な社会実験です。
ただそれでも、アドラー心理学の目的論で説かれているように、「私が今したいこと」「できること」だと思っています。
視覚思考者のための世界を
世の中には視覚思考者が多くいます。しかし、社会の仕組みは言語思考に偏っています。だからこそ、視覚的に知識を整理し、共有する場が必要なのではないかと思っています。
視覚思考者の味方として、知識の「骨組み」を図解し、共有する。
それが、私が今「図解ツール」を作り続ける理由です。
そして、みなさん自身もその脳の一部は視覚思考的に働き、まわりの人々の中には視覚思考で苦しんでいる人もいるのではないでしょうか。
将来、私の娘がもっと大人に成長していく過程で、このツールが役立つことを願っています。そして彼女が大きくなったとき、図解ツールを使った議論が世の中に広まり、より良い社会を作る手助けとなっているだろうと、勝手に思っています。(おそらく、娘は視覚思考が強い傾向だと観察しています)
だからこそ、この活動は私のエゴであり、自己満足に過ぎないのかもしれません。
ぜひ、みなさんも周りの方とともに、この「図解ツール」を使った社会実験に参加しませんか?
これを読んだあなたが、ぜひ明日、仲間と何かを議論する際に、私の図解の本棚からヒントを探してくださることを願っています。
図解ツールINDEX
さまざまなテーマを図解しています。ぜひ、あなたの抱える問いとともに探してみてください。
Mission Vision Value
【Mission】
視覚を通じて知識を共有し、人々の理解を助けることで、社会全体の思考を豊かにする。
【Vision】
Level 1 : 図解ツールのバリエーションが増えている。個々人にとって必要な図解が見つけやすくなっている。
Level 2 : 多くの人が図解ツールを知っている。そこから学ぼうとする人がたくさんいる。
Level 3 : 多くの現場で図解ツールを活用し、地に足をついた議論が活発になっている。
Level Final : 人々が図解を使って会話する文化が広がり、言語での議論に苦しむことなく、人類社会の思考が豊かになっている世界。
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