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内村鑑三「人生、何を成したかよりどう生きるか」を読んで

明治初頭に似た現代にも通ずる人生観

本書は今のように世の中に元気がない時代、先が見えない時代、救いの無いように思われる時代に、若い人をはじめ、人々がどのように生きていけばよいのかという指針を示した本なのです。

本文より抜粋

徹底的に弱者の視点で書かれた本書は、現代の私たちに向けて書かれていると言っても過言ではないでしょう。
現代も生きづらい時代です。
そんな現代社会の荒波を、どのように乗り越えていくべきなのかという視点を持たせてくれるものです。

【名を残したいという欲望は悪か】

どうにかして長い歴史の中に名を残していきたい。
私もそんなことを考えましたが、内村さんはこれは「悪いことではない」と言います。
しかし、キリスト教に出会った彼は、
「人間が歴史に名をとどめたいと思うのは、キリスト教で禁じる肉欲的なもの、信者としてふさわしくないもの、ヒーゼン的な考えである」
という考え方になり、キリスト教に出会う前より清い人生になったと語っています。
けれども同時に、前よりはつまらない人生になったかもしれないとも述べています。
清く、汚らわしいことを避けるように立派に生きることで、男らしい生涯を送るという選択肢が消えていったと言います。

では、死んだあとに残したいモノとは一体何か。
第一に『お金』です。
財産というのは、必要になってから手に入れようと思っても、すぐには難しい。だからこそ、後世のために残すべきだと言っています。
しかしそうしたお金というものは、「清い目的のために使う」のだと強く訴えています。
よくアメリカ人の資産家は、正しく清らかな目的のためにお金を使う人がいますが、日本人で見ないのは「それほどの資産家が日本には居ない」という証明なのです。
私たち日本人は、お金儲けを卑しいこととして捉えています。
しかし、そうした考え方は捨てるべきなのです。
そうすることで、本当のお金の生きた使い道が見えてきます。

第二に『事業』です。
財産を築くほどの才能が無くても、事業家になる人はたくさんいます。
事業をすることは尊いことです。
わかりやすいのは土木業でしょう。
内村さんは土木学者ではありませんが、土木事業を見るのがとても好きだそうです。土木事業が完成すれば、大きな充実感があるでしょうし、永遠の喜びと富を後世に遺すこととなるのです。
後世に遺すというのは、一生かけて、誰にも知られず、褒められる事もなく、黙々と作業をして、大事業を成し遂げる。
今日の私たちにとって、とても励みになる活動です。

第三に『思想』です。
事業の才能もなく、地位もなく、友達もなく、社会からの賛同も得られなかったら何も遺せないのでしょうか。
実は、一つだけ遺せるものがあります。
それが思想です。
200年前の英国に、痩せて背が低く、病弱な学者がいました。
無名で、役立たずと言われていた彼には、一つの思想がありました。
「人間は非常に価値のあるものである。個人は国家よりも大切である」
という思想です。
この学者は、思想が受け入れられなかったことに対して諦めず、引きこもって本を書きました。
それがジョン・ロックの『人間知性論』です。
これが引き金となって、ヨーロッパじゅうに大きな革命を起こします。
ジョン・ロックといえば、現代では有名ですが、この頃は無名だったのですね。しかも、役立たずと言われていたことに私は驚きを隠せません。

思想を遺す物の代表的なものに、本、文学があります。
ジョン・ロックのように、本に書き残すことによって、現代でもその思想を読むことができるのです。
しかし、文学なら何でもいいのかといえばそうではありません。
大河ドラマで今年ブレイクしている、源氏物語は確かに美しい文章で書かれているかも知れませんが、源氏物語が日本人の魂を奮い立たせるために何をしたのかと言うと、何もしないどころか、女性のような意気地なしにしてしまいました。
だから私は、源氏物語のような文学は根絶したいと、内村さんは熱く語ります。
では内村さんの理想の文学とはなんでしょうか。
「文学は世界に対して戦いを挑むための道具です。今戦えないから、将来に向けてずっと戦うのが文学です」とおっしゃいます。
今、事業をするのではなく、将来もずっと戦い続けたいと思い、その思想を紙に書き残してこの世を去るのが文学者です。
それが、後世に遺す贈り物であり、文学者の事業です。
と言っておられます。

「もし、思想があって、それを実行できなくても、紙に書いて後世に遺せばそれは大事業です」
このように言われる内村鑑三さんの意見には、賛成する部分と反対する部分があります。
しかし、これが大切なのではないでしょうか。
紙に書き残すことで、こうして内村さんの意見を伺い知ることもできます。
そして、それに対して、「そうだそうだ」「いや違う」と賛否を唱えることによって、自分自身で後世に遺せるものは何か、どんな生き方をするべきかを考えることができます。

自分の人生です。
自分が遺せるものを考えて、自分として精一杯の人生を送ることが、何よりも大事業だと思うのです。
あなたにとっての大事業を成し遂げていきましょう。

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尾崎コスモス/小説家新人賞の卵
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