[書評] プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える -3/6-
THE STORY FACTOR(3/6)
前回に引き続き、ビジネス書籍の プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える を紹介していきます。
地位や権限で人は動かせない
権力をともなう地位にあれば、あなたの声は大きく増幅されるかもしれない。しかしそうすると、自分の影響力を過大に評価するという落とし穴がついて回る。
「人間の思考と行動は、非合理的な感情面に強く影響を受ける」という現実を受け入れれば、広い視野と長い時間軸でものを考えられるようになる。
地位と権限を持っている人のほうが、言葉の影響力が大きいことは事実です。これは地位と権限がある種の信頼関係の一部を担っているためですが、言うまでもなく信頼関係の全てではありません。地位と権限を持つ人は、聴き手が知っている以上に沢山の情報を持って話をすることが殆どなので、聴き手は未知の情報を得るために素直に興味を持って聴こうとしてくれます。但し、前述の通りこれは信頼関係の一部でしかないので、信頼関係の他の残りの部分の穴埋めを怠ると徐々に上手くいかなくなってきます。
また、自分が人を動かせないことを地位と権限がないせいだと思い込んでいる人がいます。しかし実際には、地位と権限以外の信頼関係の方が重要度が高いことが殆どです。自分以外の人間関係・上下関係を広い視野で気を配ったり、過去の事物の経緯の把握や未来の予測を日頃から丹念に行うことで、地位と権限以上の信頼関係を築くことは十分に可能です。
時間をかけてストーリーを修正する
相手の協力を長期にわたって引き出しつづけるために必要なのは「念押し」だと、たいていの人は思っている。しかし多くの場合、相手が約束どおりに行動しないのは、約束を忘れているからではなく、そもそもあなたがその人を動かせていないからだ。あなたが相手に十分な影響を及ぼせていれば、頻繁に念押しする必要などない。
相手に伝えるという行為を、同じ言葉で繰り返しリマインドし続けることで満足してしまう話し手は多いと思います。同じ言葉で説明する必要が生じたときには、たいてい相手が腹落ちできていない状態なので、別の言葉やストーリーに修正して話す必要があります。ここでも重要なのは「信頼関係」です。信頼関係が成立している場合、念押しやリマインドはほぼ必要ありません。さらに、完全な信頼関係が築けている場合には、頻繁にお願いをしなくても継続的に期待通りの行動をしてくれることも十分にあります。
ストーリーをコントロールしない
感情を表に出したからといって不都合は何もないのに、管理職やリーダーのなかには、重要な決断をメンバーに浸透させるときに徹底的に感情を排除してしまい、そのせいで人を動かす力を十分に発揮できない人がいる。語り手がストーリーのなかに入り込むことを妨げる要因は、あらゆることをコントロールしたいという志向だ。説得力のあるストーリーを語るためには、流れに任せることが不可欠なのだ。
相手を動かしたい場面で、事前に準備したストーリー通り正確に話すことに集中しすぎるあまりに、自分自身の感情を込められないときは大事なストーリーが相手に伝わらないことが多いです。重要なのは、正確なストーリーを説明することではなく、自分の感情をしっかり込めて相手に伝える意識を持つことです。話している途中で相手が明らかに納得していない表情をするときがあります。この時も、無理にストーリー通りに説明することにこだわるのではなく、相手に伝えたいという感情に任せて伝えたいストーリーを修正することも必要になります。理解をしてもらうために説明するのではなく、伝えたい気持ちを理解してもらうことが先決です。
【ストーリー】倍返しの怪物
あなたがほかの人を動かしたいと考えるのは、自分のほうがいいやり方を知っていると思うからだろう。問題は、自分が「正しい」という自信が強固であればあるほど、反対派を「間違っている」と決めつけがちになることだ。誰だって「間違っている」と決めつける人間から影響など受けたくない。
必要なのは、相手の視点を理解し、相手も自分なりに善良な動機で行動しているのだと認めること、そして、そのために相手の側に立ったストーリーを見いだすことだ。
人を動かす場合に、自分の方が良いやり方を知っていると思うこと自体は、それほど悪いことだとは思いません。むしろ自分が正しいと思う自信があるからこそ、「相手を説得したい」とか「相手に伝えたい」という原動力が生まれます。但し、自分が正しいと思う気持ちは、相手を説得しようとする最初の勇気やきっかけとして使うことのみに使うようにして、自分が「正しい」と思っていることを無理やり相手に押し付けることはしてはいけません。話し手の「正しい」を押し付けてしまうと、それは相手にとって「否定」を押し付けられていることに等しい印象を与えてしまいます。そうなってしまうと相手はその倍の「否定」を話し手に返すことで対抗せざるを得なくなります。お互いの立場において「正しい」考え方を持っている事を大前提にして、対抗させずに双方のベクトルを同じ方向に合わせるストーリーを紡ぎ出して伝えることが大切になります。
ストーリーは『負けがない』戦略
「敵」と位置づけていた人を動かすためには、何回かにわたってストーリーを語らなくてはならないケースもある。
大事なのは、自分のストーリーを貫くことだ。何回か失敗すると、相手が抵抗派、無関心派、無気力派だと決めつけたくなるかもしれないが、そんな誘惑に屈してはならない。はじめに何度か失敗するのは、相互の敬意と協力を築くために欠かせないステップなのだ。
これは相手との信頼関係を構築するためには、敬意をもって何度でもトライする必要性を説いています。話し手が、伝えるべきことを伝えたいという信念さえあれば、それをあきらめない限りは相手との交渉事に負けたりすることはありません。人とのコミュニケーションで一発勝負のケースは稀ですし、継続的なコミュニケーションを通じてしか信頼関係を築くことは難しいです。また、よく勘違いされがちですが、話し方が上手である必要もありません。ただ相手に伝えたいという信念を示し続ければ、いずれは聴き手が必ず耳を傾けてくれるタイミングが巡ってくるはずです。
『懐疑』への対処法
懐疑的な人はほぼ間違いなく、あなたのストーリーの裏をとろうとする。重要なのは、自分が語るストーリーどおりの生き方をすることだ。あなたが口で言っていることを実践していなければ、懐疑的な人を動かすことなどできない。
これも信頼関係を築く上では重要な要素です。特に信頼関係を築く前に、悪い「疑念」が「確信」に変わってしまうと関係の修復は非常に困難になります。最悪の場合には嘘つきと思われてしまうかもしれません。
ストーリーを語るときに嘘をついてしまうことが一番良くないことですが、話し手が普段からストーリーを裏付けるような言動を取れているかどうかがとても重要です。社会のルールを守るという正しいストーリーを語っても、普段からその人がルールを軽視した言動をしていたら誰も聞いてくれないと思います。また、ストーリーが正しい情報に基づいていない、正しい信念に従っていない場合も、懐疑心を持つ人をさらに疑い深くさせてしまうことに繋がります。
ー この書評は、次回(4/6)に続きます ー