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美しい横笛作品からの憧れ

私は子供の頃から楽器、特に和楽器が好きで、
箏は習わせてもらう幸運があり、その頃から横笛に憧れがありました。
けれど当時、箏と合わせるのは尺八で、
田舎町では師範もおらず、習うすべがまったくなくて、寂しかったものです。

親の世代のビジュアルで、時代劇のヒーローが横笛を吹いていたり、『笛吹童子』みたいなのもあって、
いつからとなく、横笛に憧れはあったように思いますが、

ビジュアルとして、横笛を吹く姿が美しいなと、最初に記憶しているのは、
『白夜わが愛』というコミックでした。

下巻のみ持っていて、上巻を捜索中

五木寛之さんの『朱鷺の墓』が原作で、柴田あや子さんのコミカライズ、宝塚歌劇団で上演されたこともあったそうです。
原作では、ヒロインの染乃は、金沢の芸妓だけれど、
少女マンガでは、十五歳の少女で、
幼い日に花街に引き取られ、本来は芸妓にするために育てられるはずなのに、なぜかおかみさんは染乃が年頃になっても芸妓にしようとせず、

ただ、一本の篠笛だけを握らせて、「この笛だけは大切に」「いつか好きな人と幸せにおなり」と、普通の娘のように育てます。
どういう仔細があるかは、作品内では語られませんが、(おかみさんが密かに愛していたかつての馴染み客の篠笛名手が亡くなり、染乃は身寄りがなくなった忘れ形見?とか想像)
染乃には類まれな篠笛の才があり、お師匠さんにも早くから認められていました。

少女マンガでありながら、話の内容は過酷で、
時代は日露戦争終結後の明治、
幼なじみの呉服屋の跡取り御曹司との初恋や、
金沢に捕虜として駐留しているロシア人貴族の将校との関わりなど、始まりは甘酸っぱいものの、
身分違いと恋敵に恨まれたり、置き屋の借金など迫害にあい、おかみは自害、さらに染乃は本人も知らぬうちに売られて、女郎に身を落とします。

最後には、ロシア人将校・イワーノフと恋に落ち、女郎屋から逃れますが、
イワーノフは染乃を救うために脱走した罪に問われ、拘束されて、やがてロシアに帰還します。
染乃は金沢で笛の師匠をしながら、イワーノフが迎えに来るのを待つけれど、
イワーノフは帰還後、ロシア革命で貴族でありながら庶民の側につき、シベリア流刑となったことがわかります。
そこで染乃は、後を追って、ロシアに旅立つ…というところまでが、コミックの展開でした。

このコミックは、今では手に入らなくてすごく残念です。名作なのに。
原作の『朱鷺の墓』は、大人の話だったのでもっと過酷で、性的描写もあり、最後まで読めなかった記憶があります。

コミック作品中、イワーノフのバイオリンと、染乃の篠笛が、ふたりを繋ぐイメージになっていて、
染乃が篠笛を吹く姿が、とても美しい印象だったのが、ずっと忘れられませんでした。

作品で、横笛の描写が美しいと感じたのは、他に、
芝木好子さんの小説『女の橋』で、女性の邦楽笛師が出てくる場面を、何度も繰り返して読みました。

小説やコミックでは、音色まではわからない。
だからこそ、描写や、言葉の表現により、美しいイメージがふくらみます。
細くシンプルな笛が、奏でられることで、まるで光を放つように、情景が描き出される。

私は結局、篠笛は習えず、
能管は、だいぶ大人になってから、能楽指南を経て、師範について習い、
最近は、自分で研究・練習している、ネパール木製バンスリを愛用しているけれど、

どの笛でも肺活量は要るから、見た目ほど軽やかに吹くのには鍛錬が必要ながら、
能管は横笛の中でも特に強さを要し、ネパール木管も太さと重さがあるため息遣いは強めだし、
吹き姿や表情は、とても美しくならない(^^ゞ

どうも私は、女性的な細身の篠笛より、
頑強で力強い笛のほうに、縁が向かったようです。
どこにでも持ち歩けるような可愛い横笛を、
軽やかに伸びやかに、苦しそうでなく、吹けるようになりたかったけれど…
まぁ、どの笛でも奏でるのが楽しいには違いないから、あとは自主鍛錬次第です。

近年、私も笛と琴の音楽から惹かれた、
『魔道祖師』『陳情令』の影響で、
中国の笛子や古琴を志す人が増えていると聞くけれど、
習える場も入手経路も限られるから、篠笛に流れる人も多いようです。

『この音とまれ!』という、高校の箏曲部を描いたコミックの楽曲を、YouTubeで聴いた時は、
邦楽でもこれほどの可能性と、世界観が奏でられるのかと驚愕しましたし、
伝統と深さと共に、さらに革新的な表現は、古典楽器にはまだまだ秘められています。

日本の楽器には、どこかしら難しく敷居の高いイメージや、違う世界のもので、地味なのに厳しい…みたいな感覚があるようで、
惹かれるきっかけがなかなかないですが、

近年は和楽器を使ったビジュアルバンドも増えてきているし、コミックでもドラマでも、
なにかしら、ビジュアル的に惹かれる媒体や、作品があると、古典的なものも脚光を浴び、
憧れとして、その世界に入るきっかけとなり得るものです。

古今東西、美しいにしろ、かっこいいにしろ、
なんらか、楽器や音楽に惹かれる、きっかけとなり得る作品やモチーフが、もっと出てきたらいいなと思います。
『陳情令』は、そのあたり、音楽もビジュアルも秀逸でした。
日本作品も頑張ってほしい。

ちなみに、横笛などが描かれる作品、ほかにもあるかしら。


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