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『青い脂』こいつはマジで年間ベスト
とてつもない技術を前にすると、自身に学や知識がなくとも、作者が何をしたいのか、どういう意図でこれを行っているのかをぼんやりと思い浮かべる事ができる。そういった経験は自身の無学さを痛感させると共に、これから何を学ぶことができて何を享受することができるのか期待感を持つことができる。勝手にそう信じているし、読書をする理由であると考えている。
文学を含んだメディア分野での破壊行為は、先人に尊敬を払ったうえで行われる。これは「お前を愛しているからこそ、お前を殴るのだ!」みたいな酒に狂ったオヤジのドメスティックでバイオレンス的な発想で対象をただただ叩き壊すのではなく、先人たちが作った道がボコボコしすぎてあまりにも歩き辛っ、むっさ歩き難いので新しく作っていいスカ?あなた方が作った道は土台にするので!みたいなインフラ工事的な再構築の発想である。故に、破壊行為は、破壊だけではなく構築の側を担うものとなっている。
して、こういうつまらない話をクドクドと書くには理由がある。ウラジーミル・ソローキンの『青い脂』を読んだのだが、これがまたかなり強烈な作品だった。本作の特徴は、常に破壊が行われている点にある。本作に出てくるものといえば、中国化されたロシアや未来の高度な科学技術と結合された身体性、性に特化した物質主義など、極端に極端すぎるものが多く出てくる。それらは、今まで培ってきた感性をあざ笑うかのように破壊の限りを行い、再構築したものを眼前に突きつけてくる。参ったことに、それが休まることなく続くし、否が応でも自身の無学を痛感させられる。SNSで、文章が殴りつけくるという言葉を目にしたことがあるが、多分こういった体験のこと指して言っていたのだろう。そのぐらい鮮烈な体験だった。
と書いてみたが、実際は難しく考えなくてもめちゃくちゃに面白い。が、前半は本当に読みづらいし、その読みづらさ故に理解ができない事が多々ある。少し引用してみると
私の重たい坊や、優しいごろつきくん、神々しく忌まわしいトップ=ディレクトよ。お前のことを思い出すのは地獄の苦しみだ、リプス・老外、それは文字通り重いのだ。
しかも危険なことだ──眠りにとって、Lハーモニーにとって、原形質に取って、五蘊にとって、私のV2にとって。
といった文章が長々と続く、具体的に言うと200頁は続く。更に困ったことに、本作独自の言語や中国語について注釈はあるのだが、それを把握したところで文脈を把握できるとは期待しない方がいい。この荒唐無稽さが、理解のし難さ・読みづらさに拍車をかけている。しかし、この難解さを乗り越えた先にはとてつもなく面白い世界が広がる、具体的にいうと201頁から面白くなる。そう、200頁までは独自の言語と科学技術が合わさった難解で読み辛いものが続くが、201頁から世界観がガラッと変わり先程まで見せていた世界をドカンと破壊し新しい世界を始める。その世界の破壊こそが『青い脂』で初めに気がついた面白さであったし、201頁以降に続く物語でどういった破壊を見せてくれるのか、嬉々としながら頁をめくることになった。
タイトルでも書いたが、この『青い脂』は2023年で読んだ本の中で一番良かった。
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