【感想118】トラペジウム
久々にアニメ映画でバチコリと適合できる作品だった。
散々揶揄されていたことも大嘘で、高山一実による東ゆうへの慈愛と赦しを通してアイドルを目指すことへのメッセージを感じ取れた。
他人に勧めやすい ★★★☆☆
個人的に好きか ★★★★★
見る前に気を使ってほしい所としては映像による表現の手数で、映す場所や天気というわかりやすいところから人物の仕草や視線といった細かいところまで、かなりわかりやすくセリフ外で描写を積み重ねている。
しかもOPで東ゆいの幼少期をダイジェストで描いてキャラクターへの理解を深めさせてきたうえで本編開始という力技でスタートするので、アニメという媒体のパワーをフル活用しているところは注目してほしい。
上記で名前を出し続けている東ゆうが主人公で、序盤からこの子の身勝手さや強引さが目立つ。その強引さも裏で糸を引いているタイプのやり口で、傍から(というかくるみをはじめとした3人から)すれば率先して動いてくれる、自発的な子として見れる範疇。というのもあるので学校では若干浮いてそうであったり、打算的な目論見があるのが見え見えな態度と仕草が目立つ。
なので性格が悪いって言い方よりは打算的で自分本位な故に人付き合いが上手じゃないし嫌われやすい、て方が正確。
そんな東ゆうへの仕打ちはなかなか残酷で、自分が敷いたレールはうまく軌道には乗らないものの目標は達成できて、それでも自身には何もないからアイドルになれても上へは行けない程度という力量のなさを突き付けてくる。
なかなか憎いのはメンバーとなる3人の描写で、描写量が少ないからこそ余計に振り回されている側がどんな心境で付き合っているのかを覗けない(というより見ていないの方が近いけど)のは東ゆうに対して観客の視点と一体化させる、フォーカスさせる意図としてもよく機能しているかなとも思う。
そこから反省して成り上がるサクセスストーリーには納めずに、ありのままの東ゆうの強みとして昇華し自覚させる、というプロセスを踏むことでラストシーンにつなげたという事だけでもこの映画の良さは十分に伝えられました、て言っても過言ではないぐらい個人的には好きな部分。
そこが単純な懲悪勧善へ繋げるような話ではなく、どこまでも憎まれやすいような人間でもそこが強みとして誰かを救うことはある事を描いて肯定する話を構成したのは高山一実がアイドルをやっている時だからこそ出せた結末の1つだと思う。
アニメとしての完成度が高レベルでお出しされたのと、話のテーマとして感じたものがかなり個人的な感性に突き刺さったのもあってジャンル問わずに今年トップクラスにハマってる気がする。
アイドルを描くお話としての誠実さも一級品だし、伝え方や込められているものもいろんな人に感じてほしいなと思える一本。