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最後のひと葉

その日、ウサギは部屋の窓辺に立ち、風に舞う枯葉をじっと見つめていた。瞬きをすることさえ忘れたその瞳には、枯葉が描く儚い踊りが、どこか遠い記憶のように映っていた。

吹き抜ける北風が、枝にしがみついていた葉を一つ、また一つとさらっていく。そのたびに、言葉にできない切なさが、胸の奥深くから込み上げてくる。

「枯葉が散るのは世の定め。だけど…」
ウサギはそっと息をつき、自分に言い聞かせるように窓辺を離れた。

熱い紅茶を淹れると、白い湯気が揺らめきながら立ちのぼった。それは、何かを語りかけるようにたゆたいつつ、まるで最初から存在しなかったかのように消えていった。

その時、誰かに呼ばれたような気がして、ウサギは小さな本棚に振り返った。その視線の先で、一冊の本が彼女を待っていた。

「枝に残る葉が少なくなると、いつもこの物語を思い出すわ」ウサギは窓辺の椅子に座ると、そっと最初のページをめくった。

ページをめくる速さに合わせるように、静かな時間がゆっくりと流れていく。最後のページに辿り着くと、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「最後の一葉が散ることを願い、自分の命も散らそうとしたジョンジー。彼女を救ったベルグマンさんの心には、あの時どんな思いが渦巻いていたのだろう…」

ジョンジーと同じアパートに住む老画家のベルグマンは、冷たい嵐の夜に最後の一葉を描き上げていた。自らの命を一枚の葉に宿し、ジョンジーの命を救うために…。

窓の外を見ると、冷たい風はどこかへ通り過ぎていた。空が少しだけ明るくなり、雲間から一筋の光が射し込んでいた。

「ベルグマンさんにも、生きていてほしかったな。きっとジョンジーと笑い合う日が、また訪れたはずなのに…」ウサギは静かに本を閉じ、その余韻を抱きしめるように、そっと紅茶を口に運んだ。

「私も、誰かの助けになりたいな…」
ウサギの瞳には、もう涙のあとは残っていなかった。ベルグマンが灯した優しい光が、彼女の心の奥底にそっと溶け込み、静かに輝きを放っていた。

<最後のひと葉>
    オー・ヘンリー作/有吉玉青・訳/米倉斉加年・絵/偕成社

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