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もうぬげない

その日、ウサギはモフモフの着ぐるみを着て、琥珀色の紅茶を手にしながら、ふかふかのソファにすっぽりと包まれていた。

「はぁ〜、幸せ過ぎてとろけちゃいそう…」
ウサギはふわりと微笑み、大切に選んだ絵本をそっと開く。

物語の中の男の子は、シャツを脱ごうとしたら途中で頭がすっぽりハマり、まるで万歳ポーズのままフリーズしていた。

「ふふっ、かわいい〜!子どもって、ちょっと不器用なのよね」

「ぼくはこのまま大人になるのかな...」
どうやっても頭が抜けない男の子は、だんだん不安になっていく。

「でも、前はうっすら見えるし、なんとかなる…はず」自分を励ます姿がいじらしい。

「服がぬげないなら、脱がなきゃいいんだ」とうとう開き直り、ウサギはプッと吹き出した。

「まぁ、これは物語だからね。さあ、私もお風呂に入っちゃおっと!」ウサギは本を閉じ、着ぐるみを脱ごうと手を伸ばした。

次の瞬間...。
頭がつかえて抜けない。もがくほど、おかしな体勢になっていく。

「あれ? え? なんで!? …うそでしょ!? ま、待って、やばいやばいやばい!」

パニックになったウサギは、手足をバタバタさせながら転がり、ソファにダイブ! その勢いでクッションが宙を舞い、カーテンに突っ込んで… 視界が真っ暗になった。

どれくらい時間が経ったのだろう。ウサギが恐る恐る目を開けると、そこはいつものベッドの中だった。

「あれ…? 私、寝てたっけ?」
そっと起き上がると体を見回す。 着ぐるみは着ていない。自由に動ける。「なんだ、夢かあ」ほっと息をつき、ベッドから降りる。

「えっ…なにこれ?」
ふと部屋を見回すと、ソファは倒れ、カーテンは半分外れ、ぬいぐるみが本棚の周りに転がっている。

「これ、私…? ソファ、カーテン、ぬいぐるみ…部屋が全滅じゃん!」

「今日はもう着ぐるみ着るのやめとこ。でもちょっと寒い。やっぱり着ようかな… でもまた脱げなかったら? うう…悩む!」

「えっ…ふぁ…ふぁぁぁ…はくしょん! へぶっ!」ウサギは盛大なくしゃみをすると、荒れ果てた部屋を片付け始めた。

<もうぬげない>
ヨシタケシンスケ・著/ブロンズ新社

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