100ねんごもまたあした
「おはようございます!『ウサギのティースプーン』のお時間です」小さなラジオブースの中で、ウサギは、いつものようにふわりと声を弾ませた。
「今日は大晦日ですね。この番組もこれが今年最後の放送です。少し寂しい気もしますが、今日も楽しく盛り上がりましょう」
「さて、次のお便りは、ラジオネーム『未来を夢見るカメ』さんからです。『ウサギさんは100年後はどんな世界だと思いますか?』という質問をいただきました」
「未来のことなんて、普段はあまり考えないんですけど…」と、ウサギは少し遠くを見つめながら話し始めた。「先日、子どもたちが100年後の世界を絵に描く物語を読んだんです…」
「空飛ぶ靴を履いている人だったり、ロボットがあちこちにいる街だったり、子どもたちが描く絵はどれも夢が詰まっていて、まるで未来そのものみたいでした」
「物語が進むと、一人の少女が現れるんです。『昼休みが10分長くなる』とか、『給食の揚げパンが二つになる』とか、まるで未来のことを本当に知っているみたいに話すんですよ。それで、気がついたらもういなくなっている。不思議でしょ?」
「みなさんは、どんな未来を思い描きますか?」 ウサギはリスナーから届いた「未来」を一つひとつ丁寧に紹介していった。彼女の声には次第に熱がこもり、番組は華やかに盛り上がっていった。
「一年間、『ウサギのティースプーン』をお聴きいただき、ありがとうございました。それでは、また来年お会いできるのを楽しみにしています!」ウサギは心を込めて番組を締めくくった。
「100年後の世界かぁ。どんなふうになっているのかしらね…」静まりかえったスタジオの中で、ウサギは小さく首をかしげた。
「うーん、すぐには思いつかないわ。子どもたちって本当にすごい。あんなふうに、すぐ絵にできるんだから…」
彼女はスタジオを後にし、ゆっくりとした足取りで図書館へ向かった。歩きながら、100年先の未来に思いを馳せる。その姿を、今年最後の太陽が静かに見守っていた。
<100ねんごもまたあした>
瀬尾まいこ・作/くりはらたかし・絵/岩崎書店