打ち上がれ花火玉
その図書館の書架は、ひんやりとした空気に包まれ、無数の本が整然と並んでいた。背表紙には0から999までの数字が刻まれ、無限の物語がその中に息づいていた。
そんな図書館の一角で、ウサギは分類番号575.98の書架の前に立ち止まり、花火の本を見つけた。興奮を隠しきれない様子で、その本を手に取り、そっとページをめくった。
「やっぱり、夏は花火ね」
うっとりとページを眺めていた彼女のそばを、カメが静かに通りかかった。
「花火のことを知りたいなら、面白い場所があるよ」とカメは優しく声をかけた。
二人は図書館を出ると、電車に飛び乗った。辿り着いたのは両国花火資料館だった。
そっとドアを開けると、そこには花火玉や打ち上げ用の筒がずらりと並んでいた。その光景に、ウサギは思わず息を呑んだ。
「すごい!こんなに大きな玉が空に上がるのね」と、ウサギは思わず口を開いた。
その声に反応して、資料館のスタッフが優しく微笑みながら近づいてきた。「隅田川花火大会で上がるのは5号玉が最大なんだ。都会の真ん中だから、それ以上だと危険だからね」と、丁寧に説明してくれた。
「じゃあ、この大っきいのはどこで打ち上がるのかしら?」と彼女が問いかけると、「それは長岡の花火大会だね」と、スタッフの人は優しく教えてくれた。
「隅田川花火大会は江戸幕府の八代将軍吉宗の時代に始まったのね。そんなに長い歴史があったなんて、全然知らなかったわ」
「広重も花火を見上げていたなんて、なんだか感激だわ。花火を見ながら、この絵を描いたのかしらね」
「隅田川花火大会って、100万人以上の人が観に来る世界一のイベントなんだね」
資料を読み上げるカメの隣でウサギは目を閉じ、夜空に浮かぶ花火を思い浮かべた。
「やっぱり、夏は花火ね」