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心の距離が近い国
静かな図書館の書架の前で、ウサギは外国の旅行ガイドをじっと見つめていた。
「行きたいな、外国。でも、そう簡単には行けないわよね…」彼女はそう呟いて、深いため息をついた。
「外国に行かなくても、異国の雰囲気を感じられる場所は案外近くにあるんだよ」ちょうど通りかかったカメが、穏やかな声でウサギに話しかけた。
図書館を出た二人は、代々木上原で電車を降り、井の頭通りを歩き始めた。しばらく歩いていると、白い塔が遠くに見えてきた。
「あれが東京ジャーミイだね。」カメは足を止め、そっとミナレットを指さした。
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白い大理石の階段を上がり、重厚な扉を開けて礼拝所へ足を踏み入れた。その瞬間、まるで異国の街角に迷い込んだかのような不思議な感覚が、そっと二人を包み込んだ。
見慣れない衣装で静かに祈る人々、まるで呪文のように刻まれたカリグラフィー。そのすべてが瞳に映り、夢の中の一場面のようにぼんやりと見えた。
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ウサギはふと天井を見上げた。
「見て!天井のドームに広がる幾何学模様。まるで万華鏡をのぞいているみたい。周りのステンドグラスから差し込む光が、その模様を浮かび上がらせているわ」
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「この建物は、トルコから送られてきた材料を使って、たくさんのトルコ人の職人たちが建てたんだよ」カメが静かに言った。
「トルコといえば…そう、覚えてるわ。イスタンブールのあの空気、グランドバザールのざわめき、そしてボスポラス海峡を渡った時の風のささやき…」ウサギはそっと目を閉じ、忘れかけていた記憶を辿った。
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「トルコは日本ととても親しい国なんだよ。そして、2024年でちょうど国交樹立100年になるんだ」カメの話を聞いて、ウサギはそっと目を開けた。「歴史の重みを感じるわ。ずっと心の距離が近い国同士でいたいわね」
礼拝堂を出ると、二人は自然と空を見上げた。澄み渡る青空にそびえるミナレットが、まるでイスタンブールにいるかのような錯覚を誘う。その瞬間、夢と現実の境界がそっと溶け合い、曖昧になっていった。
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