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甘い記憶のかけら
冬の気配が街角の小さな紅茶専門店をそっと包んでいた。ウサギはアールグレイのティーカップを両手で抱え、湯気がふわりと立ちのぼるのを、ただ静かに見つめていた。
ぼんやりと外を眺めれば、冷たい空気に背を押されるように、道行く人が足早に通り過ぎていく。その姿はまるで、急かされながら流れていく時間そのもののようだった。
「今年も、もう終わるのね…」
何気なくこぼれた言葉が、静かな店内の空気に溶け込んでいく。ウサギは今年出会った甘い記憶を、指先でそっとなぞるように思い返していた。
紫の季節が記憶の中から鮮やかに甦る。雨音の間を縫い、紫陽花の影を追いかけたあの日々のこと。目の前にそっと置かれたのは、紫色の小さな花束だった。
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紫陽花ショートタルト
曇り空の夜、月を探していた記憶が蘇る。短冊に託した願いごとが、風に揺れていたあの穏やかな時間のこと。そっと寄り添ってくれたのは、地球のように深く澄んだ青い宝石だった。
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天の川ミントブルー
果てしなく続くひまわりの海が、瞼の裏にどこまでも広がる。灼熱の陽射しを浴びた花びらが、風に揺れていたあの時のこと。胸を高鳴らせてくれたのは、太陽の子どものような眩しい金色の笑顔だった。
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ひまわりフルーツアイス
秋色の風が街を包むころ、枯葉舞う銀杏並木が蘇る。どこか物足りなさを抱えたまま過ぎていく時間のこと。心を満たしてくれたのは、山を染めるもみじのような、燃えるような赤だった。
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森の赤ずきんちゃん
紅茶の湯気は、知らぬ間に空気に溶けて消えていた。まるで、ウサギがぼんやりしていた時間さえも、この世界には初めから存在しなかったかのように。
ウサギはふと、隣の空いた席に目を向けた。 図書館の閲覧席で物語の中に迷い込んでいる彼の姿が、じわりと心に浮かんでくる。
「あの人はいつも、私なんかより甘いものをずっと楽しんでいた。その笑顔はスイーツよりも甘くて、私の心を満たしてくれたの」
ウサギはそっと視線を落とした。紅茶の表面に映る少し寂しげな自分の顔に気づいて、小さく微笑んでみせる。ティーカップの温もりを感じながら、心の中の空白も少しずつ溶けていく気がした。