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未来の世界のお姫様

初夢を見た朝、ウサギは図書館へ続く道をぼんやりと歩いていた。遠くを見ると、カメの背中が小さく揺れているのが目に入った。

その瞬間、胸の奥に温かい風が吹き込んで、彼女は思わず笑みを浮かべた。そして、気がつけば軽やかに駆け出していた。

「おはよう。新しい年が始まったね」
ウサギが声をかけると、二人は挨拶を交わしながら、そのまま自然に並んで歩き出した。

少しの間、穏やかな沈黙が続いていたが、やがてカメがふいに口を開いた。
「きのう、不思議な夢を見たんだ…」

「僕は天才物理学者になっていて、ついにタイムマシンを完成させていた。あとは白いスイッチを押すだけで、遥かな未来へ行けるはずだったんだ…」

「ところが、スイッチに触れた瞬間、真っ白だったはずのスイッチが、ふいに紫色の花に変わってしまったんだ。そして、たどり着いた場所も、行くはずだった未来じゃなくて、光り輝くお城だったんだよ…」

「紫色の花…光り輝くお城? それって、私が夢の中で見た景色そのものじゃない…」
ウサギは心の中で呟くと、薬指にそっと巻かれた紫色のリボンに目を落とした。

カメの話は続いた。
「ここは何処だろうと考えていたら、紫色のドレスを着たお姫様が、馬車に乗って突然現れたんだ。思わず手を振ったら、彼女はふっと姿を消してしまったんだよ」

「そ、それで…どうなったの?」彼女は少し震える声で、カメに続きを尋ねた。

「気がついたら、未来の世界にちゃんと辿り着いていたよ。しかも、紫色のドレスのお姫様と一緒にね…」彼の言葉が途切れると、ウサギは考え込むように目を閉じた。

「あの夢の続きが彼の夢の中だったなんて。どうして未来に来たのか不思議だったけれど、そういうことだったのね。待って!ということは…私が出会ったあの王子様って…」
彼女は隣を歩くカメをそっと見上げた。

カメの話はまだ続いていた。
「それでね、そのお姫様が、とても可愛らしかったんだ。とても不思議で、でも素敵な夢だったよ…」

カメはふとウサギの方を振り返り、首をかしげた。「あれ?どうしたの?なんだか、顔がすごく赤くなってるけど…」

「す、素敵な初夢を見られて、よ、良かったわね…」ウサギはぎこちなく微笑みながら、そっと彼の顔を見た。その言葉の裏で、心の中にもう一つの言葉を付け加えていた。

「私も素敵な夢を見ていたのよ…」
その思いは朝の柔らかな陽射しに包まれ、静かに空気の中に溶けていった。

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