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はじめてのゆき

その冬の朝、ウサギはモゾモゾと布団から抜け出し、カーテンを開けると、見慣れた風景がいつの間にか真っ白に染まっていた。
「今朝は一段と寒いと思ったら、そういうことだったのね」

少し大きめのガウンを羽織り、小さな本棚に近づいて、一冊の絵本をそっと手に取る。窓の外に雪が見える椅子に腰掛けると、静かにその物語の扉を開いた。

とらのこ「とらた」にとって、生まれて初めての雪だった。「きれいな雪! 踏んじゃもったいない」とらたは、雪の上にそっと座ってみる。すると、そのフワフワした感触にお尻ごとすっぽり埋まってしまった。

「初めて雪を見たとき、確かこんな感じだった気がするわ。もう、細かいことは覚えていないけどね」

とらたは、今度は雪を両手にいっぱい載せてみる。すると...「冷たい!手が凍っちゃう!」とらたは雪を放り出して、家へ駆け込んでしまった。

「そうよね。どんなことにも初めての瞬間があって、少しずついろいろなことを覚えていくの」ウサギは微笑みながら、優しい眼差しで絵本を見つめた。

「大人になって、多くのことが当たり前になってしまったけど、子どもの時は、毎日が新しい発見の連続だったわ…」

とらたは、手袋をして帽子をかぶると、再び庭に出ていった。すると、どこからか雪玉が飛んできて、転がるたびにどんどん大きくなる雪だるまが現れた。

「雪だるま、私もよく作ったの。小さな雪の玉を作って、それを雪の上で転がして。まん丸にするのが意外と難しくて、ほかのことなんて全部忘れて、ただそれだけに夢中になってた」

遊び疲れたとらたが家に戻り、ストーブの前で温まる姿を見て、ウサギは静かに本を閉じると、温かな紅茶を淹れた。

そして、窓辺にそっと歩み寄り、外を見た。いつの間にか雪はやんでいて、曇り空の切れ間から一筋の光が差し込んでいる。それはまるで「外で遊ぼうよ」と小さくささやいているみたいだった。

<はじめてのゆき>
    「なかがわ りえこ・作/なかがわ そうや・絵」/福音館書店

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