優しい恐竜に会える街
図書館の閲覧席で、ウサギは絵本をめくりながら大粒の涙を流していた。「宮西達也さんの『あいしてくれてありがとう』…もう、なんて切ないの。恐竜がこんなにも優しいなんて知らなかったわ」
ウサギはハンカチで目頭を押さえながら、隣に座っているカメの袖を引っ張った。
「ねえ、ティラノサウルスに会える場所って、どこかにないかしら?」
「恐竜の本なら、たぶん分類番号457.8のところにあると思うけど…」とカメが言いかけると、ウサギはぷくっと頬をふくらませた。「私、本じゃなくて本物に会いたいの!」
「もしかしたら、どうにかなるかも…」
しばらく考え込んでいたカメが誘ったのは、横浜で開催中の「巨大恐竜展」だった。
「この子がティラノサウルスなのね。全身から優しさが伝わってくるようだわ。頭が大きくて素敵ね!」ウサギは声を弾ませた。
「頭が大きいのは肉食だから…」という言葉を飲み込み、カメは彼女の隣で静かに恐竜を見上げた。
「この恐竜はもっと体が大きいわ。頭が小さくて、首がこんなに長いのね」ウサギが駆け寄ったのは、竜脚類のパタゴティタンだった。「この恐竜は草食性だね」と、カメはつい口を滑らせた。
「何?どういうこと?」と首をかしげるウサギの手を引きながら、カメは静かにレストランへと向かった。
「見て!これ、可愛いわ。食べちゃうのが本当にもったいないくらい」ウサギはパタゴティタンドッグと恐竜ピザを両手に持ち、交互に見つめながら、ふわっと笑った。
「ティラノサウルスさんに会えてよかった」と満足そうに笑うウサギは、軽やかな足取りで会場を後にした。そしてふと立ち止まり、カメの方を振り返った。
「恐竜が普通にいる横浜って、素敵な街ね」二人は顔を見合わせ、微笑んだ。
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