賢者のおくりもの
その夜、ウサギはイルミネーションが織りなす光の波に包まれながら、丸の内仲通りをひとり静かに歩いていた。
街を彩る無数の灯りは、地上に舞い降りた星のように輝き、ウサギの胸の中に小さな魔法を灯していった。
ショーウィンドウに目を向けると、華やかな衣装に身を包んだ人形たちが、通りを行き交う人々にそっと幸せのかけらを届けるように、優しい微笑みを浮かべている。
「こうしてプレゼントを探していると、あの物語が思い浮かぶわ…」そう呟いたウサギは、近くの本屋を見つけると、迷わず絵本コーナーへと足を向けた。
クリスマスの絵本が並ぶコーナーの片隅に、その一冊は静かに息をひそめていた。 ウサギは宝物に触れるようにそっと手に取ると、物語の扉を優しく開いた。
物語の中のデラとジムには、誇るべき宝物が二つあった。 一つは、滝のように流れるデラの栗色の髪。 もう一つは、ジムが大切にしている金の懐中時計だ。
もうすぐ訪れるクリスマス。 二人には、プレゼント贈り合うための余裕はなかった。
それでもデラは、ジムの時計にふさわしいプラチナの鎖を贈りたくて、美しい栗色の髪を手放す決意を胸に抱いた。
一方、ジムは、デラの滝のような栗色の髪にふさわしい櫛のセットを贈りたくて、自慢の金の懐中時計を手放す決意をしていた。
そして、二人の思いが交差するように、クリスマス・イブの夜が訪れる。
「クリスマスの魔法にかかると、自分を見失ってしまうのよね…」ウサギは呟いた。
「私にも経験があるわ。同じものを三つも買っちゃったり、本当にその人のためのものだったのかしらって、あとで悩んだり…」
「やっぱり…プレゼントは一緒に選ぶべきだわ。 デラとジムのように、想いがすれ違わないように…」
ウサギはスマホを取り出し、メッセージを打つと、画面に浮かぶ言葉に笑みを落とした。「今から来れる?」短いその一言には、すべての思いが詰まっていた。
<賢者のおくりもの>
オー・ヘンリー 文/リスベート・ツヴェルガー 画/矢川澄子・訳/冨山房