![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161564086/rectangle_large_type_2_5c247d63bb7cbef37f36a08c4077eb49.jpeg?width=1200)
おひめさまようちえん
その夜、ウサギは眠る前に小さな本棚を覗き込んで、一冊の絵本を手に取った。
「夢の中でお姫様になりたいなら、この本が必要ね」そう呟くと、ふわりとベッドに体を投げ出し、最初のページをそっと開いた。
「いいなあ。近所にお城みたいな幼稚園があるなんて!」ウサギは絵を眺めながら無邪気に笑った。「私もアンみたいにピンクのフリフリのドレスを着て、青いハートの宝石を胸に飾ってみたいなぁ」
小さな女の子、アンは、手のひらの上で金色の泥団子をころころと転がしていたかと思えば、次の瞬間にはダイヤのクレヨンを握りしめ、夢中になって絵を描いている。その姿はまるで本物のお姫様のよう。
「だけど、お姫様になるには入園試験があるのよね。世の中そんなに甘くないわ…」 ウサギは小さくため息をつきながら、ページをめくった。
「アンちゃんったら、ダンスも食事も、どっちのテストもうまくいかなくていきなりピンチじゃない」 ウサギは驚いて、思わず膝を抱え込んだ。
「最後のテストって、怪獣にさらわれて王子様に助けてもらうの? でもそれって、意外と難しそう」案の定、アンは王子様を待たずに、自分で怪獣をやっつけてしまった。 まるでそれが当たり前のように。
「やっぱりね。アンちゃんって、どうも他人とは思えないの。私だって王子様を待つなんて、絶対に無理だもの」
「でもね、本当は私よりずっと強い王子様に助けてもらいたい。そう思っているのに……」 ウサギは小さな声でそう呟いて、深く息を吐き出した。
「か弱くなれたらいいのに」
ベッドの毛布を引き寄せ、自分を包み込むようにぎゅっと抱きしめてみる。でも、どうしてもそうなれない自分が、ほんの少しだけ恨めしく思えた。
「それでも、いつかお姫様になれますように……」 そう小さく呟いて、ウサギはベッドに身を沈めた。瞼を閉じると、誰かがそっと手を差し伸べてくれる光景が浮かんでくる。その優しい想像に包まれながら、ウサギは深い眠りへと誘われていった。
<おひめさまようちえん>
のぶみ・さく/絵本の杜