湯島天満宮の3つの坂道
初夏の陽射しが穏やかに降り注ぐ午後、ウサギとカメは静かに春日通りを歩いていた。やがて、視界に湯島天満宮の石段が現れた。
「ここから境内に入ると、ちょっとした驚きがあるわね」ウサギは石段を登り切ると、境内の反対側にある鳥居を指さした。
「湯島天満宮は五世紀の中頃に作られた、非常に歴史のある場所なんだ。菅原道真が祀られているから、学問の神様として有名だよね」と、カメは感慨深げに境内を見渡した。
そんな彼の袖をウサギはそっと引っ張ると、とある一角を笑顔で指をさした。カメがその先を目で追うと、おみくじが並んでいた。
お参りを済ませ、境内を後にした二人は、行きとは違う階段を降りた。振り返ると、ウサギの目が案内板に留まった。
「天神男坂って書いてあるけど?」彼女は、好奇心に満ちた瞳でカメを見た。
「湯島天神に通じる坂の中で、特に傾斜が急なこの坂は、男坂と呼ばれてる」とカメは説明した。「それに対して、女坂は角度も緩やかで、途中に踊り場もあるんだ」
男坂を登ったウサギは、右手にもう一つ坂があることに気づいた。「これが女坂なのね」
ウサギは少し考え込んだ。「待って。それなら、最初に登ってきた坂はなに?」
「あれは…夫婦坂と言うらしい」
ウサギはその言葉に驚いてカメを見つめた。「どうしてそんな名前がついているの?」
彼は小さな声で答えた。
「それは…伝わっていないんだ」
「きっと、あの坂を一緒に登ると、絆が深まるってことね」ウサギはカメの照れた様子を見て、微笑みながら言った。
「そういうことなら、もう一度登ってみようかしら」ウサギは、離れようとしているカメの袖をしっかり捕まえながら、ニッコリ笑った。