見出し画像

深海に潜む秘密の鍵

その日、ウサギは図書館の閲覧席でカメの姿を見つけると、小走りに駆け寄り、少し息を弾ませながら囁いた。
「なんだか今日は、世界の果てまで行きたくなっちゃった…」

カメはゆっくりと顔を上げ、不思議そうな顔で彼女を見つめた。少し考えるように間を置くと、ぽつりと言った。

「じゃあ…深海に行こう。思いきって、深い海の世界へ。どーんと6500メートルくらいまで潜ってみたいね」

「6500メートル…?」
ウサギは、すぐに想像が追いつかないことに気づいた。「うーん…じゃあ、カメくんにおまかせしちゃおっかな♪」

三菱みなとみらい技術館・海ゾーン
しんかい6500

静寂の中に、カメの落ち着いた声が響く。 「水深200を超えると、そこは太陽の光が届かない暗黒の世界。どんなに強力なライトを使っても、見えるのはせいぜい10メートル先までなんだ」

「水圧は650気圧もある。この環境じゃ、生き物はもちろん、ほとんどの構造物も耐えられない。さらに水温は2度…」

カメが淡々と説明を続けるうちに、ウサギの顔から少しずつ血の気が引いていった。

「ねえねえ、深海って、本当は竜宮城みたいな夢の国じゃないの?美味しいご馳走がいっぱいあって、キラキラの玉手箱とかもらえちゃう…そんな素敵なところなんでしょ?」

「お料理も玉手箱もないけど、深海へ行くのにはちゃんと理由があるんだ。その環境や生物を研究すれば、地球や生命の起源に迫れるかもしれないからね」

「冒険はワクワクするけど、暗くて寒いところはちょっぴり苦手かも…」 ウサギはそっとカメの背中に身を隠しながら、しんかい6500を見上げた。

「残念だな。不老不死の生物に会って、その秘密を聞けたかもしれないのに…」

「待って!不老不死!? それって、ずーっと可愛いままでいられるってこと?」ウサギは顔色を変えて、問いかけた。

「そういう言い方も、できるかな…」
そうカメが言いかけたところで、ウサギは調査船へ駆け寄った。そして、ずっと探していた宝物を見つけたように、ぱっと船体に抱きついた。

「カメくん、準備はOK? もう、ぐずぐずしてる時間はないんだから!」
ウサギは大きな瞳をキラキラさせ、いたずらっぽく微笑んだ。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集