モンブランの甘い誘惑
秋の夕日がゆっくりと沈む頃、ウサギは胸いっぱいに甘い予感を抱きながら、武蔵小山駅に辿り着いた。
「秋といえば、やっぱり栗よね。今日は絶対に栗にしようって決めてたの!」
お目当てのお店にたどり着き、そっと中を覗き込むと、まるで小さな舞台のように、眩い光がテーブルを優美に照らし出していた。
「なにかの取材かしら?」
ウサギは少し戸惑いながらも、入口のドアをくぐった。照明の集まったテーブルの隣に、まるで彼女を待っていたかのように、一つだけぽつんと席が空いていた。
ウサギはスマホに視線を落とし、心に決めていた「生絞りMYモンブラン」を注文した。ほどなくして運ばれてきたのは、モンブランを絞り出すための専用の器具だった。
少し待つと、花柄のお皿に乗った小さなマロンデニッシュと、その上にちょこんと添えられた抹茶アイスが目の前に置かれた。
待ちに待ったマロンクリームが運ばれてくると、ウサギはお店の人に教わりながら、両手でしっかりと絞り器を握り、ゆっくりとクリームを絞り出していった。
ハートを描き終えると、くるくると円を重ねるようにして、抹茶アイスの上にマロンクリームをふんわりと積み重ねていった。
「ハートを描くのに夢中になりすぎて、クリームが足りなくなっちゃった」少し照れ笑いを浮かべながらも、ウサギの心は小さな満足感で満たされていた。
ウサギはひと口味わうと、まるで宝物を見るようにモンブランを見つめた。「これは栗そのものの甘さね。自然のままの優しい甘さに、心までとろけそうだわ」
ふと隣のテーブルに目をやると、スポットライトの中で、モンブランが一層美しく仕上がっていくのが見えた。「とても素敵…」ウサギはしばらくその逸品を見つめていた。
「カメくんと一緒に来たかったけど、上手に作ってあげられるように、まずは練習しようと思ったの…」そう言いつつ、ウサギは心の中でそっとつぶやく。
「モンブランの誘惑に負けちゃって、実は二回食べたかっただなんて、カメくんには絶対に内緒よね」