コスモスと魔法の扉
その日、ウサギとカメは広々とした原っぱをゆっくりと巡っていた。澄んだ空気をひと息吸い込むたびに、自然と足取りはゆるやかになっていく。やさしく肌を包む陽射しの中、二人は静かに秋の訪れを感じていた。
「見て! コスモスがあんなにたくさん咲いてる!」ウサギは声を弾ませると、まるで風に乗るように一気に駆け出していった。
「今がちょうど見頃だね」カメは少し時間をかけて、ようやくウサギの隣に立ち、咲き誇るコスモスに目を向けた。
「黄色いコスモスの花言葉って『自然美』とか『幼い恋心』、『野生的な美しさ』なんだって。飾り気のない、そのままの美しさってことなのかな」ウサギは風に飛ばされそうな麦わら帽子を軽く押さえながら微笑んだ。
「可愛らしいピンクのコスモスの花言葉は『乙女の純潔』なのね。なんだか心に真っ直ぐ響くわ。新しい恋が始まりそうな、そんな予感がするの」
「雪のように白いコスモスの花言葉は『優美』とか『美麗』なんだね。白って、やっぱり綺麗な色だわ。私も、こんな風に白が似合う女の子になれたらいいなって思うの」
「ねえ、さっきからずっと気になってるんだけど、このドアって何?」ウサギは少し首をかしげて、前を指さした。
「これはフォトスポットみたいだよ。ドアの色はコスモスに合わせてるらしい」カメは穏やかに答えた。
「こっちのドアは黄色だよ?」
「ドアの向こうにいるのは、森林公園の森の妖精『モーリー』だね。このドアはもしかして別の世界に繋がってるかも…。ちょっとくぐってみない?」
カメはそっとウサギの手を握り、静かにドアを開けた。二人は一緒にそのドアをくぐり抜ける。思わず目を閉じていたウサギが、ふわりと目を開けると、いつの間にかカフェの中に立っていた。
ウサギは軽やかなステップでテーブルに向かいながら、楽しそうにカメに手を振った。「私、秋桜シャーベットソーダと秋桜ショートタルトね!」
テーブルで笑い合う二人の間に、コスモスの記憶と甘い香りが、静かに混ざり合っていった。それはまるで、日常の中の小さな魔法のように。