皆勤賞が取れない男
─皆勤賞。
それは、入学式から一度も休まなかった生徒だけに贈られる奇跡の賞である。
人のなかには、「賞状なんて紙切れと一緒」、「毎日学校に通うなんて真面目ちゃんね笑」と軽蔑した視線を送ってくるやつもいるが気にしない。
なぜ僕がそこまで皆勤賞にこだわるか?それは人生で初めて目の前で見た授与式が、皆勤賞だったからである。幼稚園の卒園式の前に担任の先生が皆勤賞を渡していた。もちろん僕は貰えていない(なぜなら先生に頭突きを食らわせたことで気まずくなって休んだから)。皆勤賞を貰った友人は誇らしげに受け取っていた。このときの妬みから、僕の皆勤賞への挑戦は始まったのである。
《中学》
小学校の頃はしょっちゅう休んでいたから皆勤賞にたどり着けなかった。だから勝負は中学校からである。中学校の入学式前から、皆勤賞をとることだけを目標に校門をくぐり抜けた。この頃から、学校だけには来るいっぱしの問題児であった。
雨の日も雪の日も雷の轟く日も僕は学校に向かった。好きな子が○○と付き合っているという噂が流れたときでさえ、ショックを受けながらも学校に向かった。
元々僕は身体が強く滅多に病気や風邪にかからない。たぶん「バカは風邪を引かない」の典型的な例だと思う(どれぐらい典型的かというとことわざの使い方例に載せられるぐらい)。
アホなことばかりしているので怪我はよくするが、器械体操部で柔軟でしなやかな身体だったからほぼ軽い怪我で済んだ。もしかすると手と足の区別もつかないほどの複雑骨折を負うような怪我も何度かしたが、幸いとっさに受け身をとれたので軽い打撲で済んだこともある。
このように僕は皆勤賞をとれる素質を持っていた。もはや皆勤賞をとるためだけに生まれてきた人間と言っても過言ではない。結局僕は、中学の三年間を一度も休まずに通い続けた。
が、ここで甘めの少年に大事件が起こる。
卒業式の前日に先生が「今まで三年間、毎日学校に通ったのは○○だけだ。よく頑張った。みんな拍手!」と言った。僕は満面の笑みを浮かべながら、「卒業証書よりかも皆勤賞の方が貰えるのが嬉しいです!」と声高らかに喜びの言葉を述べたのだが。
僕は先生の次の言葉を一生忘れないだろう。
「うちの学校には皆勤賞無いで?」
……。
なんと、その中学校に皆勤賞制度がないことが卒業式前日に判明したのである。よくもまあグレなかったものだ。無論、その日の夜、失恋のときよりも号泣したことは言うまでもない。
《高校》
中学校では果たせなかった夢を叶えよう。
中学での反省点を踏まえて、まず始めに僕は皆勤賞制度のある高校かどうかを先生に確認した。
数秒の沈黙。
心のざわめきを必死で抑える。
先生が口を開く。
緊張の一瞬が僕を包んだ。
「え、あるけど」
思わず雄叫びを上げそうになって全力で口を押さえる。転げ回って喜んでいる僕を、先生はフランシスコ・ザビエルが育毛を始めたのを見るかのような冷たい目で見てきた。思えば、あの頃から既に先生から目をつけられていたのかもしれないと思う今日この頃の僕である。
ああ、話を戻そう。
結論から言えば、高校を一回も休まずに卒業式を迎えたのであった。まさしく驚異の健康体である(ただし正常とは言えない)。
さて、皆勤賞の発表である。僕は一種の自己愛(ナルシズム)が生まれてくるのを感じながら、静かに僕の名前が呼ばれるのを待った。
「皆勤賞を発表します。」
俺の姿を見とけよ、お前ら?(※心の声です)
「△△△△」
ふっ、やったな!俺たち勝ち組!
「○○○○」
やるやん笑まあ俺も皆勤賞やけどな!
「以上です。」
何でやーーーーーー!?!?!?
心のなかで大絶叫に次ぐ大絶叫。ムンクの「叫び」も思わず口をつぐんでしまうほどの大絶叫だったように思う。もしあの大絶叫を実際に声出していたらどうなっただろう?卒業式前に大事故が発生していたかもしれない。
皆勤賞の発表後、先生に抗議しにいく。先生は僕の顔を見るたびに、「お前もあと少しだったのになあ」と残念そうに言ってきた。
「いや、一回も休んでませんけど」
「確かに休んでないけどな…。○○、一回遅刻したやろ?それでダメになってね…、」
ある記憶を思い出して、だんだん意識が遠退く。僕は高校入学前に衝突事故を起こして重症を負ったのだった。詳しくはこちら↓
なんとか無理やり退院したものの、頭の陥没骨折が異常を起こすか心配されていた。そこで定期検診を受けていたのである。最初の検診は確か、金曜日の朝だった。それ以降は遅刻していなかったが、その一度の定期検診で皆勤賞がパァになったのだという。
ということは、既に入学一週間後の時点で、皆勤賞の可能性は消えていたのである。
僕はその夜、失恋ソングを聴きながら猛烈に涙を流したことは言うまでもない(お陰で涙が枯れて次の日の卒業式は全く泣かなかった)。
ああ、皆勤賞の夢が潰えた…。
皆勤賞とりたかったなあ( ´_ゝ`)
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