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最近読んだおすすめ小説 〜2023年2月&3月〜
黒田小暑『ぼくはなにいろ』
本屋さんでたまたま目に留まり、なんとなく心惹かれるものがあったので購入。
日常における、些細な悩みから過去の深刻なトラウマまで、様々な後ろ暗いものを抱える若者たちの群像劇。
黒田先生独特の表現で紡がれていく、登場人物の心情。丁寧に繊細に描かれていく彼らの葛藤。
例えどんなに孤独であっても、自分の心を預けられるたった一人と出会えるだけで、自分の人生には、希望の光が灯る。
たった一言。
それだけで、人はどん底まで傷つけられる。逆に、包み込まれるような温かな優しさを享受することもできる。
人が愛し愛されることの素晴らしさと尊さ、その奇跡を描く、心に残る一冊になった。
青山美智子『猫のお告げは樹の下で』
心が癒やし成分を求めていたので手に取りました。(長らく積読してた)
人生や日常を悩める人たちがやってくる、とある神社。そこでタラヨウの葉に書かれた、とある『お告げ』を受け取る。お告げのキーワードを通して、登場人物それぞれがオリジナルの気づきを得て、己の人生や日常がゆっくりと好転していくお話。
青山美智子さんの小説って、単にあたたかい、ほっこり要素だけじゃなくて、ハッとさせられるような気づきを与えてくれるんだよね。それが今回も刺さりました。
今年の本屋大賞にもノミネートされているけど、青山美智子さんはほんと外れがないというか、安心して読めるんだよね。内容的にも読書初心者に勧めやすいのも嬉しい。
市川憂人『ジェリーフィッシュは凍らない』
《ジェリーフィッシュ》という小型飛行船が発達した1980年代のU国。
開発メンバーの六人によって新型ジェリーフィッシュの飛行試験が行われる最中、メンバーの一人が突如、変死体と化す。その後も、一人、また一人とメンバーが殺されていく。ジェリーフィッシュという『密室』で次々と起こる連続殺人。残されたメンバーは疑心暗鬼に陥る。
一方、その数日後――地元の刑事であるマリアと漣は、件の新型ジェリーフィッシュが雪山で燃えているとの通報を受け、現場へ向かう。新型ジェリーフィッシュの亡骸から見つかったのは、六人全員の死体だった。
密室空間で起きた殺人事件。犯人は一体、誰なのか。
難攻不落の謎に、マリアと漣が推理に挑む――本格ミステリの秀作。
なんだか無性にミステリーが読みたい! という気分から手に取った一冊。湧き上がるミステリー熱にしっかりと応えてくれた本格ミステリーでした。
本作は、ジェリーフィッシュ内で起こる《事件パート》と、マリアと漣が捜査を進める《地上パート》、そして犯人の《独白パート》の三つに分かれた構成。それぞれのパートの『ヒキ』が素晴らしく吸引力があり、『事件の真相は一体何なのか?』という謎が、最後の最後まで読者を離しません。
物語の真相はなるほどなーーー!!!! と唸らされました。
濃密で理知的な文章も、市川憂人先生の頭の良さが窺えて、とても勉強になりました。
緻密なロジック、唸らされるトリック、密室で起きる連続殺人。ミステリー好きにはたまらない一冊。
川上佐都『街に躍ねる』
読み終わった後、不思議な温かさに包み込まれた作品。
物語の主人公は、小学生の晶。彼は、兄である高校生の達のことが好きだ。
達は、いわゆる『普通の人』とは少し違う。学校に通っていなかったり、コミュニケーションが下手だったり、突然走り出してしまう癖があったり。けれど達は、物知りで絵も上手い。そんな達のことを晶は尊敬していた。
しかし、ある日、晶は、学校の友人たちと達を引き合わせたことにより、達の『普通ではない』部分に、今まで感じなかった違和感を覚えるようになる――。
自分のエゴから、ついつい、相手に対して『普通になってほしい』と願ったり、そうではない相手に対して落胆したり――そんなことは誰にでもあると思う。
そういう複雑な葛藤を柔らかく温かく描き出されていて、弟が兄を想う、まっすぐな優しさと素直さに胸が温まった。
大好きな人に対して、優しく在ろうと思わせてくれる、素晴らしい作品。
おわりに。
はい。ということで今回は4作品ほど紹介させて頂きました。心が癒やしを求めていたのか、読後感が温かめのほっこり系小説が多かったような気がしてます。ただ、その中でもちょっぴり毛色の違った『ジェリーフィッシュは凍らない』はすごくよいミステリーでした。いやはや。本筋のミステリーはもちろんのこと、刑事ふたりのキャラクターが個性的で、会話シーンが読んでいて楽しかったです。シリーズとして続刊も出てるので少しずつ追っていきたいなと思っているところです。
そしてついに4月は本屋大賞が発表です。私は今のところ、ノミネート10作中7作読んでいて、発表までにあと1冊は読んでから当日に臨みたいなと思っている次第です。
大賞はどの作品なのか……今年は特に予想がしにくいです。私も、この作品が選ばれるか、いやもしかしたらこっちの作品かな……と脳内でぽそぽそと妄想してます。はてさて、どうなることやら。
それと、今年は海外作品を対象にした翻訳部門の方も個人的に気になっていまして。
というのも、昨年読んだ『プロジェクト・ヘイル・メアリー』という海外SFがめちゃんこ面白くて、今回の翻訳部門でぜひ大賞を獲ってほしい〜!!!! と、これを読んだ日からずっと思っているのです。こちらもドキドキしながら発表を待ちたいと思います。
ではでは、今月はこんなところで。また来月お会いしましょう。ばいばい👋👋👋