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絶望のメリークリスマス 企画参加作品 カバー小説

絶望のメリークリスマス|しめじ



しめじさんの作品
カバーさせていただきました。
しめじさんの華美な
感じを残せたでしょうか?





〈甘いキス〉や〈甘いくちづけ〉
って全て比喩だと思っていた。

久しぶりに彼と会う時間。
ずっと楽しみにしていた。
もちろんプレゼントも用意してある。


「メリークリスマス」と彼が
シャンパンのグラスを掲げる。
ふたりで過ごす秘密の時間。
彼と合う為のホテルの一室。

ルームサービスで
赤ワインと軽めの
オードブルを注文して、
古い映画を観た。

ボトルの中の最後の液体を
グラスに注ぎきったタイミングで、
彼が口を開いた。

「妻に子供が出来たんだ」

そう彼は切り出した。

私は思わず、
「おめでとう」
なんて心にも無いことを
口走っていた。


「今までありがとう」
「楽しかった」
「君は僕の人生に彩りを与えてくれた」
「今でも好きな気持ちは変わらない」


彼が放った言葉が
断片的に頭の中を巡る。
彼との思い出の画像が
さっきの映画のように
再生されている。


「でも、もう駄目なんだ。別れよう……」


私は堪えきれず、
涙を流し嗚咽を漏らして泣いていた。

彼が唇をふさぐよう
私の口内へ舌を侵入させる。
私は脱力し、ただ
彼の舌と言葉を受け入れ、
自分の舌を絡ませる。

甘かった。

彼の唾液がとても甘く感じた。
〈キスが甘い〉というのは
本当だったと今更になって知った。

そのまま、さっきの言葉を
忘れるかのように激しく
彼を求めた。

一度、絶頂を迎えたあと、
私は買ってきたフルーツたっぷりの
クリスマスケーキをベッドに運んだ。

クリームを指で掬い、
彼の口へ運ぶ。
そのまま彼とキスをすると
熱で溶けたクリームと
唾液の卑猥な音が口内に響いた。



私は彼の上に跨がり挿入すると、
ゆっくりと腰を動かした。
私の中で彼のものが
また膨らんでゆくのを嬉しく思った。
それと同時に私の感情も
膨らんでゆくのを感じた。



ケーキの上の苺を
唇に挟み、そのまま彼の
口内でストロベリージャムが
できるほど激しく貪った。

彼の上で揺れながら、
ケーキを掬っては、
口に運んでいく。
口から溢れたフルーツは、
シーツのうえでフルーツジュースの
用に流れる。
ストロベリージャムや
マーマレードジャムも真っ白な
シーツを彩っていった。



私の胸をデコレーションする
クリームとフルーツ。

二人でクリームとフルーツ、
そしてスポンジにまみれ
このままケーキに
なってしまえばいいのに。


そしたら一緒になれるのに。


発作的にケーキを食べる時に
持ってきたフォークを握りしめ
彼の首筋に思いきり刺してしまった。



彼の首筋から赤いソースが飛び散る。
さっきまで飲んでいた
ワインみたいで綺麗だと思った。


彼は目を見開いて何か叫んだ。
反対側の首筋にもフォークを刺した。

今度は、ストロベリージャムが溢れた。

なんだか楽しくなって、
喉仏を狙った。

ラズベリーや金柑、
グレープフルーツが彼を彩っていく。


何度も右手を振り下ろし、
彼の白い塊に、先がバラバラに
曲がったフォークが打つかった。


開いたスポンジの隙間から
泡のようにワインが吹き出してきて、
また笑えた。


もう彼は言葉を発しなくなっていた。


首から空気が抜けていく音がする。
彼を彩るケーキの破片を指で掴み、
彼の首の泡立った真紅のジャムを
つけてから口内に運ぶ。

ラズベリーの味に感じた。
そのまま彼の口へ
唾液と共にラズベリージャムを注ぐ。


このままもう一度
絶頂を迎えたいと思い
クリームのついた腰を
激しく振ったが、
彼の膨らみは、
空気が抜けてしまったようだった。

なんだかシラケてしまい、
風呂場でシャワーを浴びた。
感情が昂り過ぎて風呂場で吐いた。

ビチャビチャと透明なお湯に混ざって
ストロベリーソースが
排水口に飲まれていった。


衣服を身につけてコートを羽織り、
ホテルを出た。
イルミネーションが
煌めく街を歩く人々は楽しげだった。


私も何故だか笑っていた。
路上でキスをしているカップルがいた。
「甘いんだよね」
と呟いて通り過ぎた。

駅の時計は深夜0時をまわったところで、
「メリークリスマス!ダーリン」
と思いっきり叫んだ。


クリスマスには、似つかわない
サイレンを鳴らす白黒の車。
私が後部座席に座るのは
あと数時間後。



【END】


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