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どこまで危機は深くなるか?でもそこに変革の希望もある:読書録「コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画」

・コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画
著者:冨山和彦
出版:文藝春秋(Kindle版)

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産業再生機構を率い、数々の企業再生を手がけつつ、自らもローカル企業を経営する著者による「アフターコロナ」における経済復興論。
…と言っても2部構成になっているようで、本書はその危機認識と、そこを乗り越えるために必要なものについて論じた「TA(turn around)編」。「アフターコロナ」における変革については続編(6月出版)の「CX(corporate transformation)編」で論じられるようです。


危機認識については簡潔にはこう。


<時間軸的には L(ローカル)な経済圏の中堅・中小のサービス業が打撃を受け、次に G(グローバル)な経済圏の世界展開している大企業とその関連の中小下請け企業へと経済収縮の大波が襲っている。この段階での衝撃を受け損ねると、次は金融システムが傷んで今度は金融危機の F(ファイナンシャルクライシス)の大波が起きかねない。>

<私は、これから本格化する Gの世界の第二波をどう受け止めるか、が勝負だと思っている。これを受け損ねると、次に世界経済は第三波、 Fの危機となり、本当に回復が難しくなる。世界の産学官金が力を合わせて、何としても Gの第二波で経済危機を収束させることが肝要である。>


この「L→G→F」と言う危機の連鎖の見立ては、まあ言われていりゃその通りだし、漠然とは考えていたものの、それを実にクレバーに整理してくれています。
今起きているのは、飲食店やエンタメ産業等のローカル産業の壊滅的な打撃。
これはリーマンショックではここまで見られなかったし、東日本大震災でも地域限定でしか直面しなかった(だからこそ他地域からの支援ができた)。
そこをまず直撃しているのが今回のコロナショックの「現状」というのは確かにそうですね。
現在の日本の労働人口の8割は中堅・中小企業が支えているので、そのインパクトも大きいです。


しかしそれがGに波及し、Fに至ると、「経済システム」そのものが傷んでしまう。
そうなるとLも含めて、「再起動」が極めて難しくなる。
難しくなるが、その可能性は極めて高いというのが作者の見立てでしょう。
(そういう意味で「経済を回せ」論とは違います。むじろ中途半端な対策で対策期間が伸びてしまい、経済システムそのものが痛むことの方を危惧してるのではないかと、推測します)


本書の読みどころはこの見立てと、今後の方向性(詳しくは次作で論じられるはず)のところですかね。


<試験偏差値の均質な学歴競争を経て、新卒一括採用で終身年功制のサラリーマンとなり、同質的、連続的、固定的なメンバーで一つの会社で集団的な改良的イノベーション力、オペレーショナルエクセレンスで延々と戦い続ける……この「日本的経営」を軸とした会社と社会と人生のモデルは、残念ながら今の時代には多くの産業と職種で成り立たなくなっており、実際どんどん壊れている。事業モデルと競争メカニズムの変化が要求する組織能力の変異幅が、改良的な範囲で済むときは、同質的、連続的、固定的メンバーで構成された組織は強い。しかしそれを超える、スポーツにたとえれば野球からサッカーに代わるくらいの変異幅になると、むしろ脆さを露呈するのである。そのギャップを埋められなくなった結果が、稼ぐ力の長期的弱体化なのだ。>


ま、ここはコロナショックとは関係なく、作者が指摘し続けてきたこと。
それがコロナショックで顕となり、変革のタイミングと速度が速くなった…ということでしょう。


じゃあ、企業は「今」何をすべきか?
ある意味、身も蓋もない。
「現金」
です。


<過去の経済危機の歴史において、同じ業種でも企業の生死を分けたのは、要するに危機到来時における、手元流動性(現預金)の潤沢さ、金融機関との従来からの信頼関係、そして平時における稼ぐ力(特に営業キャッシュフローの厚み)と自己資本の厚み、以上である。>


まあ、そうだよね。
そのためにとにかく奔走しろ!
そういうことです。


<会社が生きるか死ぬかの状況で、「何よりも会社の遺伝子を残したい」とか「この素晴らしい企業文化は絶対に守る」とか「従業員だけは絶対全員守る」とか美辞麗句を並べだす経営者がいつも出てくるが、そんな綺麗ごとの観念論で飯は食えない、日々の生活を営んでいく人々の人生は救えない。より大きな善のために捨てざるを得ないものは果断に捨てるべし。一時、そのために激しい批判にさらされ、恨まれることは覚悟して。>


キツい。
でも多分「今は」正しい。


締めとして作者はこう言っています。


<今、すべての人にとって重要なことは目の前の問題に全力で取り組むことである。それは医学的には感染症の爆発を止めること、一般人の私たちにおいては自らの行動変容、すなわち個人の行動のトランスフォーメーションであり、経済的には収入を失って困窮する人々の生活と人生とシステムとしての経済が不可逆的に壊れることを防ぐことだ。現場もリーダーもここに全力投入だ。>


まったくです。
だから僕も「個人の行動のトランスメーション」を実践し、それを踏まえた「業務のあり方」について、まずは取り組んでいきます。
その先に次のトランスフォーメーションがあることも念頭に置きながら。


#読書感想文

#冨山和彦

#コロナショック_サバイバル


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